【3】ブラックボックス化した流通システム

Plan・Do・See(PDS) 農業が抱える問題を解決するべく、会社を立ち上げて「SEND」のサービスを展開したということですが、たとえば、農業が面白くなるようなコンテンツやプロダクトも考えられるなかで、あくまで生産者と需要者を結ぶ、サポーターのようなかたちで入ったのは、どういった理由だったのでしょうか?

SENDのサービスがハブになることで生産者とシェフがつながり、正しいかたちで農産物と情報が循環する、新たな流通物流プラットフォームを実現。
SENDのサービスがハブになることで生産者とシェフがつながり、正しいかたちで農産物と情報が循環する、新たな流通物流プラットフォームを実現。

菊池 アートやクラフトの世界と一緒だと思っていて、自分が作ったものが人の目に晒されず、評価もされず、届ける場所もないと――

PDS ただの趣味になっちゃうと。

菊池 もちろん農家の方はちゃんと仕事としてやっています。作ったものを届ける先がブラックボックスになっているんです。だとしたら、届けたい先とつながる設計にしてあげれば、作り手のモチベーションを上げることができるのではないかと。そうして生まれたのがSENDで、農畜産物の流通プラットフォームと謳っていますが、「農家のモチベーション生成システム」とも思っています。

PDS 農家の方のモチベーションを上げるには、使い手からの評価の場が必要だったというわけですね。

菊池 そうです。

農家にもシェフにもやさしいシステム

PDS ここから具体的にSENDの話をお聞きしたいんですが、サービスを利用しているレストランが6400軒、生産者が5000軒と、同じようなサービスを展開している他社よりもかなり大きな数だと思うのですが、ほかとは何が違うんですか。

菊池 比べたことはないのでわからないのですが(笑)。冷静さと情熱というか。要は自分たちが作ったものはトップのプロに使ってほしいし、プロが欲しいと言ってくれたほうが気分が上がるじゃないですか。ただし、熱い感情だけではダメで、配送とか支払いとかいろいろと煩雑な手間がたくさんあるので、個包装もせずにまとめて送ってもらって、納品書や請求書も必要ありません、とできるだけ簡略化したプロセスで済ませられるように、支払いも早められるようにしたんです。ここが冷静さですね。

PDS いままでだったら、サイズや色、形を仕分けるのが当たり前だと思いますが、それも気にせずゴロっとまとめて送っていいということですか?

菊池 そうです。ただ、生産者さんもプロ向けと分かっているので、品質の良い状態で出してきますし、大きさも揃えてきてくれます。

PDS 形がいびつだったりしてもソースに使えば何ら問題ありませんしね。

菊池 仕分けるか仕分けないかサイズがどうかという議論よりも、バラでも売れるようにするとか、需要を見つけ出す、マーケットを作ってあげるということが大切です。

PDS 農家さんとプラネット・テーブルはどのような契約を結んでいるのでしょうか。

菊池 発注ベースで全量を買い取っています。

PDS すべて、ですか?

菊池 これまでの農産流通は仕入れに対する支払いではなく、売上分にしか支払いをしていなかった。たとえば100kg仕入れて60kgしか売れなかったら、40kg分は払わないんです。

PDS それも農業の慣行でしょうか?

菊池 そうです。そういう業者が大半ですね。60kg分しか生産者には支払われないのに、送料料は100kg分を引かれてしまう。じゃあ、残りの40kgはどこに行ったの? という議論が実はちゃんとされていなかった。

個人間では面倒な手続きが多かった代金の支払・受取を効率化。
個人間では面倒な手続きが多かった代金の支払・受取を効率化。

PDS プラネット・テーブルで全量を買い取っても、食材が残ってしまうこともあると思いますが、そのコスト負担は問題ないのでしょうか?

菊池 ロス率を下げていくことでコストを削減しています。

PDS 食材のロス率はどのくらい?

菊池 1%以下あです。

PDS 一般的に15〜20%と言われるなかでかなり低い数字ですね!

菊池 ほうれん草を例にとると、あるチェーン店では絶対にお浸しにはほうれん草を使わないといけないんです。ですが、私たちが契約しているレストランはシェフの采配でメニューを決められるようなところばかりなので、必ずしもお浸しがほうれん草である必要はなくて、旬で美味しいものであればそれでいい。ですから在庫を見ながら適宜振り分けるようにしています。

PDS 「ほうれん草のお浸し」としていたものを少し抽象化して、「旬野菜のお浸し」と翻訳してあげればいいんですよね。考えてみると当たり前のことですよね。

菊池 ちなみに、畑から出荷されたものが冷蔵庫に届くまでに15%ロス、冷蔵庫の中で15%ロスして、合計30%ロスと言われています。

PDS そもそも冷蔵庫まで届かないものがそんなにあるんですか?

菊池 あります。農産品の流通はスーパーを中心に組まれていて、卸さんは欠品させてはダメなのでどんどん在庫を積んでいきます。すると古いものはバンバン捨てますし、1つ、2つ痛んでいたら箱ごと返します。それが、「やっちゃ場」と言って青果市場の端の方で格安で売られたりもしていますが、そこでさばききれるような量ではない。そういうものを捨てたとしても、全体の流通効率でいうと問題ない、という考え方なんです。これはやっぱり悲しいことですよね。

PDS 一般の人たちはその現実を知らないですよね。

菊池 そのしわ寄せがどこに行くかというと生産者に行くわけです。数十年間、生産者の所得が上がらないとか、継ぎたくない産業になってしまったとか、そうした問題が全て生産者に堆積してしまって、限界値を迎えてしまいました。

PDS 誰も気づかなかったんですか?

菊池 みんな気づいていて、ずっと議論していました。でも解決することなくここまで続いてきてしまった。持続可能かどうかという議論は、すでに限界を迎えているとき初めて議論になります。そうではなくて、そうならない仕組みを先に考えなければいけないんです。

PDS 誰もそのソリューションを作れなかったところで、SENDがその一役を担う存在になるわけですね。

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