俺は昔からずっと、みんなと楽しく、
好きなことだけやって生きてきた

PlanDoSee(以下PDS 子ども時代、どんなことがきっかけで海の向こう側に興味をもったんですか?

白石 きっかけは、特にないよ。

PDS   え、ない?

白石 俺、生まれてこの方、まったく変わっていないもん。生まれっ放し。そんな感じするでしょ? 人生、ずっと夏休み。で、ずっと幸せ。それは証明できるよ。小学校のときの同級生が「本当、お前変わらないな」って言うから。だって俺、まだ幼稚園卒業してないからね(笑)。

PDS  でも、その天性の明るさがどこからくるのか、知りたいです。普通、ほとんどの人が大人になるにつれ、そんなふうにはいられなくなるじゃないですか?

白石 じゃあ、あなたはなぜ変わっちゃったの? 誰からそういうことを教わったの?

PDS    誰から? でも、周囲の期待に応えたいとか、そういうことかも。

白石  ないね、そういうこと。俺は昔からずっと、みんなと楽しく、好きなことだけやって生きてきたから。楽しいことって、いいじゃん? 子どものころ、海に憧れたのも「なぜ海か?」と聞かれると、自分でもよくわからないわけ。まさか、これだけ海が好きなのに、船酔いが激しいとは思わないでしょ? びっくりしたよ。ダメじゃん俺、って(笑)。

PDS    いつ、気づいたんですか?

白石  高校生のころ。初めての長期航海がマグロ船でさ。3カ月間。“よし、行くぞ”となったら、1週間ずっと吐きっ放し。でも、船に乗るのを30年続けているってことは、きっと好きなんだよね。得意不得意は、本当に関係ない。ただ、みんなとどうすれば楽しく遊べるか、愉快な時間を過ごせるか、ってことだけをずっと考えてきた。規模はでかくなったけどね。昔は自宅周辺の鎌倉だけだったのが、今は地球全体だから。

PDS    子どものころはどんな遊びを?

白石 昔から、遊びのスケールはでかかったよ。小学校時代、鬼ごっこをすると江ノ島まで逃げるヤツがいたもん。それで結局、昨日の最終的な鬼が誰だったかわからなくなるわけ。途中で「暗いし、帰ろう」ってなってさ(笑)。初めは神奈川県、それが太平洋になって、今は世界中を周って、地球全体を楽しめるようになった。でも、やっていることは基本的に一緒なんだよ。“みんなで楽しもうよ”“愉快にやろうよ”みたいな。規模が違うだけで、根っこの部分は何ひとつ変わっていない。

取材は、白石さんが所属するスポーツビズにて。26歳のときに176日間かけて、単独無寄港世界一周を達成。その後、「エコ・チャレンジ」ブリティッシュ・コロンビア出場を皮切りに、数々の国際的なヨットレースで実績を上げてきた。
取材は、白石さんが所属するスポーツビズにて。26歳のときに176日間かけて、単独無寄港世界一周を達成。その後、「エコ・チャレンジ」ブリティッシュ・コロンビア出場を皮切りに、数々の国際的なヨットレースで実績を上げてきた。

PDS そんな白石さんの原動力は?

白石 ひと言でいうと“好奇心”かな。

PDS 好奇心というのは、見てみたい、体験してみたい、知りたい、といったこと?

白石 そう、それでその好奇心に赴くままにやってきた。で、どうなったかというと、こうなった(笑)。それが答え。でも、これからもっと面白くなるよ。

PDS  どんなふうに?

白石 まあ、見ていてよ。俺はこの歳になっても、毎日が楽しいからね。

PDS それ、素敵なことですよね。

白石 次に何が起こるんだろう、って考えるだけで楽しくてしょうがない。その繰り返し。

PDS 遊びの規模が、どんどん大きくなったきっかけは?

白石 最初はさ、船で地球一周したかったんだよ。でも、うちはヨットを買えるような裕福な家庭じゃなかったし、母親が小学1年生のときに亡くなっているからね。でも、そんなことは俺にとっては関係なくてさ、とにかくやりたかったんだよね。それで水産高校に進学して、船の勉強をしてさ。もともとは機関士志望だったんだけど、1982年に多田雄幸(1930年生-1991年没)という人が単独世界一周ヨットレースで優勝して帰国したわけ。で、どうせだったら、突っ張っているほうがカッコいいじゃん。だったら、俺も独りでやってやろう、って。男ってバカでしょ? でも、そういう生き物なんだよ。

PDS 多田さんというのは?

白石 俺の師匠。当時、俺はただの高校生だったし、コネもまったくなかったけど、この人に絶対に弟子入りしたいと思ってさ。インターネットがない時代じゃない。それでとりあえず東京駅まで行って、公衆電話の横に置いてあった電話帳を調べてみたら、「多田雄幸」って名前があったんだよ(笑)。

PDS ウソ!?

白石 本当だって。のんきな時代だったよね。それで、勢いで電話をかけて「弟子にしてください」って伝えて。

PDS 高校時代に?

白石 1年生のときだったかな。忘れちゃった。師匠は、ヨットのことは全然、教えてくれなかったよ。ずっとお酒ばっかり飲んでいたから。船の上より、新宿のゴールデン街にいる時間が長かったような人だったし(笑)。

PDS そんな師匠から、どんなことを学んだんですか?

白石 とにかく、“楽しめ”って。どんな状況でも、師匠は楽しくセーリングしていたからね。あれが俺の最終的な目標だよね。だって、海がすごく荒れているのに、ヨットの中で餃子の皮を延ばしているんだよ(笑)。

PDS 餃子?

白石 何で冷凍じゃダメなんだろう、と思っていたんだけれど、きっと美味しい餃子が食べたかったんだろうね。小麦粉をこねるところから始めてさ。俺がデッキで何時間も海と格闘しているのに、うちの師匠ときたらそっちのけで。あと飛行機が好きでね。バイクのエンジンを買ってきて、自家製の水上飛行機をつくったのよ。もちろん、勝手に。で、3機目でやっと飛んだんだって。「3メートル、飛んだ!」って。「3メートルしか飛ばなかったんですか、残念でしたね」って言ったら、「よかったんだよ、コウちゃん。俺、着陸の仕方がわからないから」って答えるわけ。ヨットも自分でつくって、挙げ句の果てに世界一周して優勝したんだから、あの人には本当に敵わないよ。

PDS 豪快というか、もはや傑物の域ですね。

白石 師匠の著書で『オケラ五世優勝す−世界一周単独ヨット航海記』(文藝春秋刊)というのがあるんだけど、それを読んで感銘を受けたんだよね。

2016年11月にスタートした単独無寄港無補給世界一周レース「第8回ヴァンデ・グローブ」には、白石さんの師匠である故・多田雄幸さんの意思を受け継ぎたいという意味を込め、命名した「Spirit of yukou」(4代目)で参戦。多田さんは史上初の世界一周単独ヨットレース「アラウンド・アローン」(BOCレース)クラスIIの初代優勝者だった。
2016年11月にスタートした単独無寄港無補給世界一周レース「第8回ヴァンデ・グローブ」には、白石さんの師匠である故・多田雄幸さんの意思を受け継ぎたいという意味を込め、命名した「Spirit of yukou」(4代目)で参戦。多田さんは史上初の世界一周単独ヨットレース「アラウンド・アローン」(BOCレース)クラスIIの初代優勝者だった。

困ると思っていると、
困る方向に思考回路が設定されてしまう

PDS 白石さんが変わらないで生きてこられた、いちばんの理由は何だったんですか?

白石 うちの親父は、昭和ひと桁生まれの古い男だったんだけど、子どもの意見に反対したことが一度もなかったんだ。その代わり、賛成もなかったけど。

PDS なるほど。

白石  俺を育ててくれたのは、戦前教育を受けた明治生まれの祖母で、タフで厳しい人だった。親父は、とにかく「自分で決めろ」以外、何も言わなかったね。

PDS 自分がやりたいことを、お父さんにプレゼンするんですか?

白石 プレゼンって、あなた……。仕事じゃないんだからさ。まあ、いいけど。でも、親父には何も言わなかった。全部、事後報告。俺がどこの高校に進学するのかも、親父は後で知ったくらいだし。「水産高校に行く」って報告したら、「お前、魚屋になるのか?」って言うから、「いや、そうじゃない、船乗りになるんだ」って答えてさ。家を出るときも、理由も聞かなかった。うちの親父は「そうか」としか言わなかったよ。

PDS 当時、そう言われることに対して、どう感じていました?

白石 しつけは厳しかったけど、今でも親に感謝しているのは、子どもの意見を尊重してくれたことだよね。それと、親の恐れを決して子どもに植え付けなかった。これはとても重要なことで、「お前、成績がよくないと将来困るぞ」「大学に行かなくてどうするんだ」「英語くらい喋れないとダメだ」「ヨットでメシが食えるのか」みたいなことは一切言わなかった。だから、俺は恐れを知らないの(笑)。うちの娘もそう。俺は「何々をやったらダメ」ということを言われなかったから、自分の人生は全部自分で決めてきたんだ。

PDS 私の場合は、起こり得るリスクから逆算して、それに準備しなさいと教えられてきたように思います。

白石 あのね、それ全部、ウソだよ。そう言った本人の顔を見てみなよ。つまんない顔をしているぜ。好きなことだけやっていると不幸になる? 困る?  困らないでしょ。俺は、英語も、フランス語も話せないよ。それでも、世界中を面白おかしく周っている。全然、困らない。ただ、英語を話せないと困ると思っていたら、必ず困る。だって、困ると思っていると、困る方向に思考回路が設定されてしまうから。

PDS そっか、困ると思うから困るんだ。

白石 そう。そういうときって、どんどん自分で困る方向に舵を切っているわけ。一方の俺は、常に人生を楽しい方向にしようと思って生きているわけじゃない? で、どうかというと、ずっと楽しいんだよね。その理由は、楽しい方向に舵を切っているから。

PDS ずっと、ワクワクしていたい?

白石 俺は、常に自分の気持ちに正直に従うからね。“楽しい方向はこっちだよ”って心のコンパスが示してくれるんだ。そしたら、当然、楽しくなるよね。簡単なことだよ。

PDS それは、いつ気づいた人生訓?

白石 今、振り返ると、ってやつだね。

PDS 子どものころ、将来に対して不安を感じたことはなかったんですか?

白石 ないね。いつも楽しいほうを優先するから。普通の人はさ、ヨットで世界一周するとなったら、大変だと思っちゃうじゃない。でも、俺はそう考えない。逆に、どんなに気持ちいいだろうって思うんだよね。で、後になってから、それが大変だって知るわけ。でも、それは一つひとつ問題を解決していけばいいだけの話だからさ。

PDS そうですよね。大変なことや辛いことが出てきても、その時々で対処すればいい話なのかもしれませんね。

白石 船酔いも、最初は抵抗したよ。だって、イヤじゃん。乗り物酔いはしたことある?

PDS ないです。

白石 地獄だよ。俺の場合は、ずっと起きてなきゃいけないし。航海中は1時間、2時間しか眠れないから、その間、ずっと吐いているんだよ。拷問だよね。で、薬も飲めない。眠っちゃったら危ないから、ボーッとできないんだ。でね、最初は抵抗したよ。船酔いに効くっていうツボを刺激してみたりしてさ(笑)。

PDS あはは(笑)。

白石 でも、ああいうのは、全部まがいもんだよ。何をやったってダメなものはダメ。それで、とうとうある日、俺は自分のことを“船酔い野郎”だと認めることにしたんだ。それから、船酔いをなくそうとするんじゃなくて、船酔いを楽しもう、と考えるようになった。あらゆるものを吐いたね。胃の中を空っぽにしちゃうと胃液を吐いちゃうから、なるべく食べたほうがいいんだけど、麺類がダメで、鼻から出てくるから吐き心地が悪くてさ。でも、ある日、目の前にあったオレンジジュースを飲んだら、偶然にもこれがすごい発見だったんだ。美味しいんだけど、吐くじゃない。正直、驚いたんだけど、胃の粘液の酸っぱさとオレンジジュースの酸味がマッチして、吐いていて美味いって感じるんだよ(笑)。

PDS ウソ!?   それ、完全につくっていますよね?(笑)

白石 いや、本当だって。それから吐くことが俄然、楽しくなった。もうひとつの特典は、オレンジジュースが普通の人の2倍楽しめること(笑)。

PDS  “往復”ってことですか? 吐くときに美味しい、というのは普通の人にはわからない感覚です(笑)。

白石 それまでの俺は船酔いから逃げていたんだけれど、ついにそれで俺のほうが主導権を握れるようになったんだ。

PDS そっか。そういうのが楽しむ、ってことなんだ。

ヨットレースが素晴らしいのは、
人間界と自然界の両方を楽しめること

白石 最初は逃げて、苦しみを避けるほうに舵を切っていたけど、どうしてもダメだった。でも、船酔いは仕方がないと思えた瞬間、すごく楽に付き合えるようになったんだ。

PDS なるほど。

白石 全部、そういうことなんだよ。今度、オレンジジュースで吐いてみな。俺はウソ言わないから。実体験に基づいているからね。

PDS それがまたすごいですよね。でも、1日中、吐き続けるなかで、どんなことを考えながら過ごしているんですか?

白石 早く帰りたい、と思うに決まっているじゃん。他に何か考えることある? それ以外にないでしょ?

PDS でも、出発のときは、どんな旅になるのか、ワクワクするんですよね?

白石 ううん。早く帰りたい(笑)。

PDS えー! 最初から、ですか?

白石 そう。

PDS レースが始まったら、3カ月近く帰れないわけですよね?

白石    うん。

PDS  その間、ずっと帰りたい、って思いながら?

白石 みんな、それは一緒だと思うよ。ただ、地球と一体感を味わえたり、途中でいろんなことが起きるから。

PDS 地球と一体になるって、どういう感覚なんですか?

白石 言葉にするのは難しいんだけれど、とにかく気持ちがいいんだよね。ヨットレースをやっていて素晴らしいのは、人間界と自然界の両方を楽しめること。例えば、ヨットレースに出るまでは人間界での大冒険があるんだ。だって、ヨットレースに出場するには何億円もかかるんだけど、まずはヨットを準備するだけで5〜6億円。これは他チームが用意した最新ヨットの値段だけれど、中古でも2億円弱だよ。その資金をまずは集めないといけないの。しかも、何十億人といるアジア人で、このレース(2016年開催の単独無寄港世界一周レース第8回「ヴァンデ・グローブ」)に参加したのは俺が最初だからね。

「ヴァンデ・グローブ」はBOCレース(寄港を伴う単独ヨットレース)を2度制したフィリップ・ジャントーにより発案された単独無寄港世界一周レース。1989年から4年に一度開催され、2016年で8回目を迎えた。白石さんは30年来の夢だったこのレースに、アジア人として初めて参戦。
「ヴァンデ・グローブ」はBOCレース(寄港を伴う単独ヨットレース)を2度制したフィリップ・ジャントーにより発案された単独無寄港世界一周レース。1989年から4年に一度開催され、2016年で8回目を迎えた。白石さんは30年来の夢だったこのレースに、アジア人として初めて参戦。

PDS へえー!

白石 このレースは1989年に始まったんだけど、アジア人が出場するのに30年近くかかっているんだよ。しかも完走率50%。それでスポンサーに「1億円ください」って言いに行くわけだからさ。テレビ中継なんかも一切ないし、ハイリスク・ノーリターン。それに「応援してくれ」「お金を出してくれ」ってお願いするのは、いくら厚顔のヤツでも至難の技だよ。でも、それだけのお金を集めなければスタートラインにすら立てないからさ。それでスタートラインに立ったら、今度は誰の力も借りないでたった独りで地球を一周する。人間界と自然界の両方をサバイブできないと、このヨットレースは完結できしないし、逆に言うと、それがこのレースの醍醐味だよね。地球全体を楽しめる、っていうか。

PDS 確かに。

白石 そんなスポーツ、ないじゃん。だいたいのスポーツって2時間あれば終わるでしょ。俺らは2,000時間だから(笑)。地球一周以上、長いコースってないでしょ?

PDS ないですよね。地球を目一杯、楽しんでいる感じがしますね。

レースは2016年11月6日にフランス・ヴァンデ県・「レ・サーブル・ドロンヌ」からスタートし、約80日間(約2,000時間)かけて単独無寄港無補給で世界一周し、再びゴール地となる「レ・サーブル・ドロンヌ」を目指す。たった独りで全長60フィート(約18メートル)の外洋レース艇に乗り、南半球1周およそ2万6,000マイル(約4万8,000キロメートル)の航程を帆走。
レースは2016年11月6日にフランス・ヴァンデ県・「レ・サーブル・ドロンヌ」からスタートし、約80日間(約2,000時間)かけて単独無寄港無補給で世界一周し、再びゴール地となる「レ・サーブル・ドロンヌ」を目指す。たった独りで全長60フィート(約18メートル)の外洋レース艇に乗り、南半球1周およそ2万6,000マイル(約4万8,000キロメートル)の航程を帆走。

白石 とはいえ、仙人になるつもりはないよ。人間界も思い切り楽しみたいから。

PDS 人間界を航海していくうえで、いちばん大変なことは?

白石 大変なこと? あまり大変って思ったことはないかもしれない。人間界は、愛があれば渡っていけるから。

PDS  愛? これは私の個人的な意見ですけど、愛を感じるには結構な時間がかかりますよね?

白石 抱きしめてキスすればいいの。どこに時間をかける必要があるの? 時間がないと相手を理解できないの?

PDS 抱きしめてキスは、ちょっと……。

白石 “Love is action”。愛は実践です。

PDS そうなんですか……。

白石 これ、誰の言葉か知っている?

PDS  知りません……(汗)。

白石 マザー・テレサだよ。彼女はね、立派な教会でもっともらしい説教をしていたわけじゃないんだよ。そんなことしている暇があったら、インドの貧しい地域でひとりを救えばいいじゃない? 教会で説教したからって何になる? 世の中、明るくなる? 愛は実践であって、理屈じゃないの。あなたが言っていることは理屈なんだよ。“何が必要”“あれが必要”“これじゃなきゃダメ”。それって、ビジネスだよね? ”こうしてくれたら、ああします”。取引だよね。

PDS  はい。そうかもしれません(汗)。

白石 自分が好きなら、いいんだよ。俺はヨット好きなの。理屈はいらないよ。船酔いするとかも関係ない。俺がやりたいんだから。人間にも「好きだから、俺のことを好きになれ」とか一切言わないし。俺が好きなら、それでいい。

失敗したから、状況が酷くなるっていうのは違うよ。
成功したら幸せになる? それも違うね

PDS じゃあ、スポンサーのみなさんはどうなんですか? 彼らが白石さんに求めているものは?

ポロシャツの胸には、八海山、フジタ製薬、京都銘菓おたべ、セイコーウオッチのスポンサーロゴが並ぶ。ポロシャツやセーリングジャケットは、ノルウェーの防水ウェアメーカーとして140年以上の歴史を誇るヘリーハンセンがサポート。腕時計は、「ヴァンデ・グローブ」参戦のために開発された白石康次郎モデルの「セイコー プロスペックス マリーンマスター オーシャンクルーザー」。
ポロシャツの胸には、八海山、フジタ製薬、京都銘菓おたべ、セイコーウオッチのスポンサーロゴが並ぶ。ポロシャツやセーリングジャケットは、ノルウェーの防水ウェアメーカーとして140年以上の歴史を誇るヘリーハンセンがサポート。腕時計は、「ヴァンデ・グローブ」参戦のために開発された白石康次郎モデルの「セイコー プロスペックス マリーンマスター オーシャンクルーザー」。

白石 それは、俺が勝手に「たぶんこう」って言うのはおかしいでしょ? 俺はレーサーであって、スポンサーじゃないからさ。実際、よく聞かれるんだ。「白石さんにはなぜスポンサーがつくんですか?」「なぜ、何億円も払うんですか?」って。うわべだけで答えるのはイヤだから、そういうときは「俺は知らない」って正直に答えていた。でも気になって、この前、スポンサードしてくれている本人たちに聞いてみたんだ。だって、2,000万〜3,000万円あれば、新聞広告を出せばいいじゃない。リスクなく、何万人に、コマーシャルを打てばいいじゃない。「それなのに、何で俺にリスクを承知で、社員を説得して、株主を説得して、投資してくれるの?」ってさ。そしたら、何て答えたと思う?

PDS  何て答えたんですか?

白石 ほぼ、みんな答えは同じだった。「人柄だ」って。ビジネスじゃないよね。だって、儲からないんだから。「1億円ください」「1億2,000万円にして返します」というのはビジネスだよね。「1億円投資してくれたら、新聞の何倍もの広告効果があります」「商品が売れます」という見返りもまったくないからさ。例えば、「八海山」で有名な新潟の八海醸造がスポンサードしてくれているんだけど、世界一周したって日本酒は売れないよ。フジタ製薬(動物用医療品を中心とする製薬会社)も関係ないよね。それでも、億単位のお金を出してくれるんだよ。

PDS  人柄だけで、億単位のお金が集まるんですね。すごい!

白石 だから、 会議室では決まらないよね。あるスポンサーは2億円出してくれたんだけど、「コウちゃん、とても社内では話せないから」って言われて、社長に喫茶店のルノアールに連れて行かれてさ。ほとんどそうよ。だって、そういう案件じゃない。あとはゴルフ場とか、そういうところで決まる。理屈じゃないから。でも、他のみんなが考えるのは、どうやってお金を出してもらうか作戦を練って、テクニックを覚えようとする。“人柄を磨け”って誰も言わないでしょ?

PDS 確かに、そうですね。

白石 ビジネスのほうはあなたのほうがよく知っていると思うけど、僕のやり方はそうなんだよ。

PDS  そう思うと、“愛”だ。

白石 でしょ。スポンサーだって、一緒に楽しくやりたいんだよ。今回のレースでいうと、俺は3億8,000万円集めたんだけど、その結果がスタートから1カ月後に突然マストが折れてレース続行不能だからね。途中リタイアして、泣いて帰ってきた。全部、無駄にしちゃった。でも、スポンサーを下りるって言う人は誰もいなかったよ。怒る人もいないしさ。「またやろうよ」って。失敗したから、状況が酷くなるっていうのは違うよ。成功したら幸せになる? それも違うね。成功しても不幸なヤツをいっぱい知っているもん。

第8回「ヴァンデ・グローブ」では、スタートから約1カ月後の12月4日南アフリカ・ケープタウン沖でマストが突然折れるアクシデントが発生し、レース続行が不可能に。無念のリタイアを表明した。現在、2020年11月に開催される第9回大会への出場・初完走を目指している。
第8回「ヴァンデ・グローブ」では、スタートから約1カ月後の12月4日南アフリカ・ケープタウン沖でマストが突然折れるアクシデントが発生し、レース続行が不可能に。無念のリタイアを表明した。現在、2020年11月に開催される第9回大会への出場・初完走を目指している。

PDS そうですね。話は変わりますけど、テレビを観ていると、よくアスリートたちが大会終了後に「自分を応援してくれた人たちのために」というメッセージを発したりするじゃないですか。こっちは、”そんなこと気にしなくていいのに……”と思ってしまうんですけど、白石さんはレースを終えて帰国したとき、どんな気持ちなんですか?

白石 誰に対して?

PDS スポンサーとか?

白石 俺は常に、スポンサーと一体だもん。特に、社員の人と仲がいいからさ。普通、社長や広報の人としか付き合わないでしょ。例えば、フランスにエヴァン法というのがあって、アルコールとタバコの広告が禁止されているわけ。で、「ヴァンデ・グローブ」のレースではフランスがスタートとゴール地点だから、「八海山」の表示ができないのよ。無理やり、そのまま出場しようかとも思ったけど、国の法律だからさ。八海醸造の社長は「康次郎、今回はムリだ」って言っていたんだけど、社員から「白石さんのヨットから、“八海山”の名前が消えるのは寂しいです」って声が上がって、「お前たちがそこまで言うのなら」って同じ会社でつくっている「あまさけ」の名前を入れてスポンサードしてくれたんだよ。ね、これいい話でしょ?

PDS やーん、うれしいですね。泣ける。

白石 ほとんどの選手はね、スポンサードしてくれる会社の社員とは付き合わないんだよ。でも、俺は自分のセーリングジャケットをつくっているおばちゃんにも、花束を持って会いに行くからね。俺のジャケットは、全部で約200のパーツからできているんだけど、工場に行くといつもおばちゃんが丁寧にミシンをかけてくれているのよ。で、「ここの部分を縫うのが大変ですね」「白石さん、わかっているわね」みたいな会話をすると、目一杯の愛情を込めて縫ってくれる。だから、俺のセーリングジャケットは、簡単には壊れないんだ。「八海山」だってそうよ。彼らは一生懸命つくったお酒を売った利益から、お金を出してくれている。杜氏がいて、営業がいて、販売して、彼らには常に感謝しながら、レースに参戦している。若い人にそれを理解しろ、というのは難しいかもしれないけど、スポンサーに対しては、いつもそういう気持ちかな。

PDS なるほどねえ。

白石 俺は、自分のヨットのセールに入ったロゴを見たときに、パッと社員の顔が浮かぶんだよね。だから、今回、失敗しても何の苦情もなかった。そもそも、宣伝のためにやってないんだよ。でもコミュニケーションがとれていないと、「何だ、あいつは失敗しやがって」となる。そうなると、お互いに不幸だからさ。だから、スポンサーにはそういうリスクも十分納得してもらわないといけないよね。俺は、下手したら死ぬんだよ。それで「あいつはやっぱりダメだったな」と言われたら、いちばん悲しいでしょ。「見事な最期だった」って言ってほしいからさ。

PDS うんうん。

白石 だから、新しくスポンサードしたいという申し出があっても、俺はまだ時期尚早だと思ったら、「もう少しコミュニケーションをとってからにしましょう」って言うからね。もちろん、お金は欲しいよ。気持ちはうれしいんだけど、俺みたいな案件は、お互いを理解し合えていないと難しいからさ。そんな事情もあって、俺のスポンサーはみんな20〜30年の付き合いなんだよね。会社もお金を出せるときと、出せないときがある。でも、出せるときだけじゃなく、出せないときも付き合う。それを俺はずっとやってきたんだよ。

PDS 家族、みたいな感じ?

白石 ほぼ、そんな感覚だよね。俺は「八海山」以外の日本酒は飲まないしさ。契約書には書いてないよ。書いてないけれど、俺のルールなんだよ。そういうのが、お互いを思いやる心なの。

PDS そうですよね。誰も見ていないけど、そうするっていう。

白石 八海醸造からは、頼まれていないよ。俺がそうしたいだけだから。

PDS わかります。愛でつながっているんだ。素敵。

長年の付き合いがある新潟県の八海醸造では、利益度外視で白石さんをサポート。「はっかいさん あまさけ」の文字が、セールの中央に大きく見える。日本ではピンとこないかもしれないが、ヨーロッパにおける「ヴァンデ・グローブ」の人気は、テニスの「全仏オープン」や「ツール・ド・フランス」以上。その注目度は、驚くほど大きい。
長年の付き合いがある新潟県の八海醸造では、利益度外視で白石さんをサポート。「はっかいさん あまさけ」の文字が、セールの中央に大きく見える。日本ではピンとこないかもしれないが、ヨーロッパにおける「ヴァンデ・グローブ」の人気は、テニスの「全仏オープン」や「ツール・ド・フランス」以上。その注目度は、驚くほど大きい。

いくつもの体験をしないと、
自分が何者であるかがわからない

白石 質問しにくいでしょ?

PDS いえいえ(苦笑)。

白石 みんな、そう言うよ。俺のインタビューは、思っていた答えが返ってこないから。

PDS だからこそ、お話していてワクワクします。

白石 じゃあ、 好きなこと聞いて。

PDS そう生きたいけど、そうできないから憧れちゃいます。

白石 そう生きたい? じゃあ、そうすればいいじゃん。今からでも遅くないよ。

PDS いいなあ。自分の好きなことを素直に好き、って言えて。

白石 これは若者が読むんだっけ? あのね、人生って学びじゃないんだよ。学ぶ必要なんかない。

PDS どういうことですか?

白石 確かめるんだよ。人生は、自分を確かめることの繰り返し。学びって、知らないことを知ることだよね。もうあなたは、学ぶことなんか何もない。もう知っているの。“これが楽しくて、これが楽しくない”って。それが答えだよ。教わる必要ないでしょ。答えをもうもっているのに、何を知る必要があるの? どこを見ているの? 自分にとって最高の教師は自分。「これが楽しい」「これが素敵だな」「これがイヤだな」もある。俺は「全員と仲よくしろ」とは言わない。好きな人と仲よくしなさい。嫌いというのは、嫌いな理由があるんだよ。嫌いな人と仲よくしようとすると、どうなると思う?

PDS こじれますよね。私、自分のことも嫌いになりそうです。

白石 孔子は、『論語』のなかでこう言っているのよ。「敬して遠ざける」って。つまり、ムリして付き合わなくていいの。ただし、無礼な態度をとったり、悪口を言ったり、無視しろとは言っていない。敬って、なるべく遠ざけなさい。国同士もそう。隣だからって、仲よくする必要なんてない。お互いに、そろそろ仲よくしようと思ったら、そうすればいいんだから。親類もそう。いい? 自分のサインによく耳を傾けてみなよ。体は傷ついたら、痛いってサインが出すよね。じゃあ、心は?

PDS 教えてください。

白石 苦しい、ってサインが出るんだよ。

PDS 本当ですか?

白石 何で苦しいと思う? それがサインだよ。あなたの心が「それは違うでしょ」って言っているんだよ。でも、常識、世間体を気にして、自分を押し殺そうすると、「苦しいよ、違うよ、本当はそう思っていないのに」ってなる。

PDS 私、涙が出てきました。本当、そうですよね。

厳しい自然のなかで、たった独りでヨットを操るためには、高い技術と精神力はもちろん、多くの人からのサポートがあってこそ。さまざまな困難に直面し、それを乗り越えてきたからこそ語ることのできる人生訓は、ヨットという特殊な世界だけのものだけでなく、ビジネス、教育、日常生活と密接につながっている。
厳しい自然のなかで、たった独りでヨットを操るためには、高い技術と精神力はもちろん、多くの人からのサポートがあってこそ。さまざまな困難に直面し、それを乗り越えてきたからこそ語ることのできる人生訓は、ヨットという特殊な世界だけのものだけでなく、ビジネス、教育、日常生活と密接につながっている。

白石 “こうしなきゃ”“ああしなきゃ”“だって、こうだもん”って考えていると、必ず苦しくなって、悲しくなって、いたたまれなくなる。これが、心のサイン。人間は、体と精神と心の3つでできているんだよ。体のサインはわかるよね? 病気は自ら発症するものなんだよ。癌もそう。自ら発症するの。感染るものじゃない。“休んでね”ってサインを出しているのに、闘ったら死んじゃうよ。俺は、体と精神と心が全部一致しているから、辛い思いをしても平気でいられる。だって、楽しそうでしょ? 俺は、心の声に素直に従うもん。よく自分探しのために旅に出るとか言うじゃん。でも、旅は必要ないし、日常生活だけで十分。で、その先に何があるかって? なりたい自分を想像してみるの。それが人生。そのために必要なのは、体験だよ。いくつもの体験をすることだよね。そうすると「これが好き」「これが嫌い」となる。そこで確かめる。体験しないと、自分が何者であるかがわからないんだよ。

PDS 私はまだ、自分で何が好きか嫌いかもわからないのに……。

白石 じゃあ、素晴らしいって何? どうやって理解するの? 明るいって何? 暗闇があって初めて明るさがわかるよね? 幸せって、どうやって実証するの? 不幸だから幸せがあるよね。そうでしょ? これは体験でしかわからないんだよ。この地球って星は、想いと体験でできているの。そのために、人間は生まれてきたんだ。で、自分という存在があって、いろいろ体験していく。そこで、自分は何者であるかを確かめる。生きることで、学んでいく。答えは、あなたのなかにあるんだって。

PDS 私ももっているんだ?

白石 そう、もっている。でも、間違った方向に進もうとすると苦しくなるし、正しいと幸せになる。自分の素直な気持ちに正直でいられたら、楽しくてしょうがない。それを俺は“一体感”という言葉で表現するんだけど、自ずと幸せな気分になれるよね。あと、講演会でもよく話すんだけれど、犯罪をして捕まる人がいるじゃない。ああいう人たちって、笑顔じゃないよね。それは、根がいい人だから。本当はいい人だから、ああいう顔になる。そうじゃなければ、ルパン三世みたいに笑顔なはずなんだよね。

PDS 本当にそうですね。

親の仕事は、子どもを
心配することじゃなくて、信じること

白石 教育方針の話になるけど、俺は子どもたちに何も教えない。その代わりに体験させる。で、その選択に俺は介入しないの。楽しければ続ければいいし、イヤだったら止めればいい。「最後まで続けなさい」とは言わない。自分の娘にも「止めたかったらいつでも止めていいから、自分で決めなさい」としか言わないから。それが体験なんだよ。体験は、いい体験もあれば、悪い体験もある。失敗することもあれば、成功することもある。その喜怒哀楽を噛みしめるんだよ。そこから逃げちゃダメ。悲しいと思ったら、悲しめばいい。悲しんじゃいけないのではなく、受け止める。で、その気持ちを乗り越えられるようになったら、前に進めるようになる。それを我慢しちゃうと、次に進めないよ。感情の処理に時間がかかるから。

PDS うんうん。

白石 俺も、失敗したら悔しいよ。30年間の想いがあったのに、マストが折れたときは涙も枯れ果てたよ。たださ、次をやると決めたら、パッと挑戦者の気持ちに切り替わるんだ。失敗した言い訳なんかしない。「次の大会、頑張るよ」ってなる。そこからは明るく。「もう1回やらせてください」って。絶対に逃げない。ところで、“愛”の反対って何だかわかる?

PDS 何だろう? “憎悪”とか?

白石 “恐れ”と“不安”だよ。で、決断の話をするとね、何かを決めるときって、みんないいと思って、そう判断をしているんだ。最初から悪い決断しようなんて人、誰もいないでしょ?

PDS いないですね。

白石 でも、詐欺にひっかかるヤツ、いるよね。男に騙される女、いるよね?

PDS いますね。

白石 あれ、みんな自分ではよかれと思ってやっている。なんで、そうなると思う? わかりやすく言うとさ、すごく幸せで、仕事も上手くいっている。仲間もいて楽しいし、お金にも困っていない。そんなとき、怪しい投資話をもちかけられても、絶対に乗らないよね? でも、本当にお金に困ってみな。明日、子どもの学費も払えないとなると、子どものためにハンコを押しちゃうんだよ。その人もいい決断をしているつもりなんだけど、何が違うと思う?

PDS それが、不安と恐れからくる決断だから?

白石 そう、正解。決断したときの、心の温度の差なの。“それは愛に基づいての決断ですか?”“明るくて前向きな機嫌のいいときに決めましたか?”“それとも不安なときに決めましたか?”って。その差なんだよ。

PDS なるほどねえ。

白石 俺はヨットレース中、常に機嫌のいい状態をキープすることを目指している。機嫌がよくないと、絶対に正しい判断ができないから。例えば、子どもが心配だ、彼氏が心配だとか、心配が大きくなると、それが恐れに変わってくる。心配って、愛じゃないんだよ。愛は信じることなの。で、うちの親父は、俺を信じてくれた。「こうすればダメになる」とは言わなかった。俺の決断を尊重してくれたわけ。子どもを信じていたんだよ。

PDS そこまで信じてもらえるなんてすごい!

白石 ほとんどの親は、自分の不安や恐怖を子どもに植え付けてしまうんだよ。「勉強しなきゃダメ」とか「女子はこうじゃなきゃダメ」って、“ダメ”ばかりを植え付ける。それで、子どもはどんどん自分を追い込んでしまう。でもさ、本当はダメじゃない。みんな、こうやって生きなきゃダメだって、平均台の上を歩かせるようなことをするけれど、それは親の恐れでしょ? で、その平均台から落ちたら、どうなると思う?

PDS めっちゃ、怒られます。

白石 あのね、いいこと教えてあげようか? 平均台から落ちたら、そこには広い大地が広がっていて、どこにでも行けるんだよ。あなたも、平均台から落ちてみな。海も越えられるし、いろんな素敵な出合いがあるから。俺は、それを子どもたちに教えている。

PDS うらやましい!

白石 親の仕事は、子どもを心配することじゃなくて、信じることなんだよ。

PDS もしかしたら、仕事もそうなのかもしれませんね。

白石 心配って“恐れ”だからね。いちばんいいのは、認めてあげること。世の中、認めることができれば、戦争なんかなくなるから。全部、「あいつを認めない」ってところから始まるんだよ。俺のレースチームのクルーは、フランス人、アイルランド人なんかの5カ国混成だよ。やり方も宗教も考え方もみんな違う。でも、何でまとまるかというと、お互いを認め合っているからだよ。俺は常に機嫌がいいの。だから、みんながついてくる。外国語を一切話せないのにね。

気持ちが落ち込んだら、
心の灯りを点ける

PDS 機嫌よくいられるために、心がけていることは?

白石 自分の周りを、常に心地いい環境にしておくことかな。暗くなったら灯りを点けるじゃん? あれと同じで、気持ちが落ち込んだら、心の灯りを点けるの。以前、俺の講演会に来てくれた女性起業家が「会社が上手くいっていなくて落ち込んでいるんです。白石さん、どうしましょう?」って言うから、「正常な反応です」って答えたの。普通、業績が下がって落ち込まない人はいないでしょ? 「ただ、ちょっと考えてみて」と。「それでも、あなたを支えてくれる人がいるよね。あなたに優しい言葉をかけてくれる人がいるよね。そっちを向きな」ってアドバイスしたんだよ。

PDS それで?

白石 “ああ言われたから”“こう言われたから”って、そっちばっかり気にしていちゃダメなんだって。あと、自分自身を必要以上に責めるのもダメ。公園を歩いていても、「あ、花が咲いている。空がきれいだな。子どもたちの声が聞こえるな」ってうれしくなる人間と、「今日は暑いな。子どもたちもうるさいし。あ、犬の糞がある。この糞の形がどうのこうの」って言うヤツがいるじゃん。で、あなたはどこを向いているんですか、って話ですよ。俺もたくさん失敗したよ。スポンサーに何億円も損をさせた。でも、そこから逃げない。だから、心に灯りを点けるんだよ。状況は変えられないし、変わらない。ごまかさないよ。そのとき大切なのは、失敗に、苦しさに負けないこと。不安に負けないことだよ。どうすればみんなが喜ぶだろうって、そっちを向いてみな。俺がお金を出して、スポンサーの業績を上げることはできないからさ。ただ、向きを変えてみな。それだけ。

PDS どうすれば、みんなが喜ぶんだろう?

厳しい大自然と対峙するのは、自分の思い通りにいかないことの連続。だからといって、あきらめることなく、その時々でできることを精一杯しながら、タイミングをうかがう。ヨットレース中に遭遇する出来事は、まさに人生の縮図のよう。
厳しい大自然と対峙するのは、自分の思い通りにいかないことの連続。だからといって、あきらめることなく、その時々でできることを精一杯しながら、タイミングをうかがう。ヨットレース中に遭遇する出来事は、まさに人生の縮図のよう。

白石 だから、何回も言うけど、自分が楽しいと思う方向に舵を切ればいいんだよ。でも、不幸な人って、ずうっと嫌いなほうを見ているでしょ。“あのとき、ああ言われた”“こう言われた”って、10年前のことを言っているからね。

PDS 言っているかも……。ところでさっき、“向きを変える”って話がありましたけど、海上で、真っすぐぶつかって行くとよくないときってありますよね。波がすごいとか。

白石 ある。

PDS そういうときは、向きを変えるんですか?

白石 変えるね。具体的に言うと、直観ってあるんだよ。みんなもあるでしょ? スポーツでも仕事でも、これが当たった、素晴らしい、って。そういうときって、ほとんど何も考えてないじゃん。でも人間ってさ、ずっといい状態が続くかというと違うから。それは達人の域で、俺みたいな凡人の場合は、必ず好不調の波がある。1航海がだいたい3カ月だから、調子のいいときと悪いとき、場が荒れているときがあるよね。仕事でもそうでしょ? 調子のいいとき、運がいいとき、ラッキーなときは、直観に従っていればいい。何も考えず、素直に、明るい心でね。愛の領域で考えたことは、ほぼ間違っていないから。

PDS へえー!

白石 ところが、人間っていつもそうはいかないじゃない? 雰囲気が悪いな、人間関係が気まずいぞってときは、必ず事故やケガが多い。しかも、必ずそれを繰り返す。調子の悪いときは、俺はこうする。いい判断はできないから、判断しない。つまり、判断しないことを判断するわけ。で、コンピュータの指示に従う。コンピュータって、0か1かでさ、そこに感情がないでしょ。だから、あえてそれに従う。無難な手を打つってことだよね。調子がいいなと思えたら直観に従うけど、アンラッキーなことが続くな、とか思ったら、場が回復するまで大きな決断をしない。経営も一緒じゃない?

PDS そうかもしれませんね。

風が吹いていないときに、
いくら帆を揚げてもダメ

白石 世の中には、人の波と世間の風があってさ。風が吹いていないときに、いくら帆を揚げてもダメなのよ。風が吹いているときに、パッと揚げなきゃ。それを見極めないと。しかも常に変化する。世の中は、諸行無常なの。わかる? 諸行無常っていうのは、変化が常の状態。つまり、絶えず変化する。人間は常に変化するから、変化しないようにしたらダメなんだ。そこにムリが生じて“四苦八苦”っていうんだけど、とにかく変化を捉えることが大事。

PDS 仏教の例えがちょいちょい出てきますが、それは何か関係が?

白石 俺が、好きなだけだよ(笑)。ところで、お釈迦様って実在の人物なのは知っている? あれは神様じゃなくてボンボン。釈迦族のボンボンなんだよ。奥さんと子どももいた、王子でね。暗い男だったんだろうね、きっと。俺みたいな明るい男じゃなかったんだよ(笑)。で、こっちに行ったら死人がいる。約2500年前。こっちに行ったら病人がいっぱい。で、こっちに行ったら年寄りがいるわけ。

PDS ほおほお。

白石 それで“なぜ?”って考えたんだよ。不思議だよね。普通は思わないよ。“なぜ、みんな苦しむんだろう?”って。結局、奥さんと子ども、釈迦族を捨てて修行に出ちゃうわけだよ。酷い男だよ。うちの奥さんだったら、「女房と子どもを捨てて、何が悟りよ!」って言うと思うよ。そうだよね、奥さんと子どもにしてみれば、「釈迦、ふざけんな」「うちの生活どうするの」って話だし。“苦しみとは何だろう?”“なぜ人は苦しむんだろう?”ってところから始まって、滝に打たれたり壮絶な苦行を繰り返すんだけど、最後は何も食べない修行をして死にかけるんだ。そこにスジャータって娘が現れて、ミルク粥を与えるんだよね。「スジャータ」っていう食品メーカーが名古屋にあるけど、あれはもともとは人の名前だから。お釈迦様を助けた子どもの名前なんだよね。それでスジャータさんのミルク粥で元気になるんだけど、そこでお釈迦様が面白いことを言うんだよ。散々、修業したじゃない? 最後になんて言ったと思う?

PDS えー、何だろう?

白石 「すべては無駄である」って言ったんだよ。だから、学びが無駄だっていうのもそう。お釈迦様も同じこと言っているんだよ。で、最後に、菩提樹の木の下でリラックスしていて悟ったんだよ。修行で悟ったんじゃなくてね。つまり、教室や会議室の中では悟れないんだって。

PDS ありのままでいたときに、降りてきたんだ!!

白石 お釈迦様が言っているんだから、間違いないでしょ? 別に、一生懸命に学んだりすることを否定するつもりはないし、それだと何の教育もできなくなっちゃうからね。でも、体験の大切さを気づかせてあげるのが僕の役割だから。

PDS ふーん。

背中にプリントされた「天如水!」の文字は、白石さんが通う居合術の道場に掲げられていた言葉からのインスピレーション。海に出ると、地球を包み、動かす、大いなる意思を身近に感じるという白石さんにとって、その大いなる存在が天。天を感じ取り、与えられた天命をまっとうし、地球と一体になることが理想だという。この理想に近づくための指針が、この「水のごとくあれ」という言葉なんだそう。
背中にプリントされた「天如水!」の文字は、白石さんが通う居合術の道場に掲げられていた言葉からのインスピレーション。海に出ると、地球を包み、動かす、大いなる意思を身近に感じるという白石さんにとって、その大いなる存在が天。天を感じ取り、与えられた天命をまっとうし、地球と一体になることが理想だという。この理想に近づくための指針が、この「水のごとくあれ」という言葉なんだそう。

白石 なぜ、体験が大切かというと、体験しない限り、自分が何者であるかがわからないから。引きこもりは何もしないからいけなくて、それだと自分が何者であるか、いつまで経っても気づけないでしょ? 1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件というのがあったんだけど、犯人の元少年Aが『絶歌』(太田出版)という手記のなかで、“透明な自分”って書いているんだよ。こんなに苦しいことはないよね。無差別殺人があると、彼らは必ず同じことを言うよね? 「誰でもよかった」って。きっとそうなんだろうね。だって、自分が生きているか、死んでいるのかすら、わからないんだから。で、ああいう行動をとる。別にその人が憎いわけじゃない。殺人が目的でもない。自分が何者であるかわからないから苦しいんだよ。

PDS ふむふむ。

あなたの答えは、
あなたにしかわからない

白石 自分が楽しいと思えることをやって、それでいいじゃない。何か上手くやろうとか、計算するのは止めなよ。複雑に考えないことだね。

PDS 他人よりどうのとか、そういうことですよね?

白石 だから、俺は子どもに「自分の頭で考えな」って言うの。その、ひと言だけ。答えはもうあなたが知っているから。俺にはわからない。あなたの答えは、あなたにしかわからないんだから。リラックスして入浴しているときでもいいし、ベッドに入る前でもいいよ。そのとき、頭に浮かんだことがいちばん楽しいことなの。例えば、バスに乗っていたとするじゃん。で、車内は満員です。電車でもいいんだけど、想像してみて。あなたは座っていて、バッとドアが開いた。で、杖をついたお年寄りが入ってきました。どうする?

PDS 席を譲ってあげようかな、って考えます。

白石 そうだよね。ぶっ飛ばそうとは思わないよね。

PDS 思わないです(苦笑)。

白石 それが、あなたの心の声なんだよ。でも、次の瞬間、余計な雑音が聞こえてきます。「恥ずかしいな」「きっと誰か譲るだろう」「断られたらどうしよう」。これはどこで考えていていますか? 心じゃないよね。頭だよね。

PDS はい。

白石 簡単に言うと、そういうことなんだよ。「あ、おばあちゃん、こっちこっち!」って、笑顔で手を振ればいいんだよ。で、「私、まだ若いから」って言われたら、「悪いこと言っちゃったね。気を悪くさせちゃってごめんね」って、ひと言謝って、座り直せばいいだけじゃん。違う?

PDS そうですね。超シンプル!

白石 ね? 心で感じることって、そういうこと。

PDS 本当。私の場合、頭でいろいろ考えて、モヤモヤして終わることが多いかも。

白石 出ました! モヤモヤしちゃう(笑)。それはサインです。本当は席を譲りたいのに、あなたは頭で考えて止めるでしょ? だから、モヤモヤするんだよ。ちゃんとサインが出ているの。心の声に素直に従うのって、気持ちがいいんだよ。「おばあちゃん、よかったね」って言って、席を譲ればいいだけ。そうすれば、心もきれいになるし、頭も喜ぶ。それがずっと続くと、俺みたくなる。ハハハ(笑)。

PDS ふーん。

白石 まあ、この場合は良心と愛の話だよね。

PDS 断られたとしても、自分が正しいと思うことは実行に移すことが大切なんですね。

白石 そう。世間体を考えることなんてないよ。それで、怒る人もいるかもしれない。そしたら、「ごめんね」「失礼しました」って謝ればいいじゃん。「出過ぎた真似をして、すみませんでした」と言って座り直すと、今度はそのおばあちゃんが辛い思いをするわけ。“あ、なんて可愛くないことをしてしまったんだ”って。うちの親父も言っていたよ。車中、席を譲られるんだって。男だから悔しいと思うんだけど、「康次郎、最近は可愛らしい年寄りになろうと思って、座るよ」って。言われた側も、その葛藤があるんだろうね。中途半端な年齢だと。

PDS 確かに。

白石 でもそのとき、せっかく席を譲ってもらったんだから、「ありがとう」と言うのが正解でしょ。お互い、ハッピーじゃん。そこに変なプライドはいらないよね。傷つくっていうのはさ、よく「傷つけられた」って言うのはウソだからね。人は人を傷つけられません。“あの人は、私のことをああやって傷つけた”って思っていたら、大間違いよ。

PDS はあ?

『海洋冒険家-白石康次郎の挑戦』(フジテレビジョン刊)、『マイナスをプラスに変える行動哲学-答えは自分のなかにある。-』(生産性出版刊)、『精神筋力 困難を突破し、たくましさを育てる。』(生産性出版刊)、『人生で大切なことは海の上で学んだ』(大和書房刊)など、著書多数。企業や学生向けの講演会なども行う。
『海洋冒険家-白石康次郎の挑戦』(フジテレビジョン刊)、『マイナスをプラスに変える行動哲学-答えは自分のなかにある。-』(生産性出版刊)、『精神筋力 困難を突破し、たくましさを育てる。』(生産性出版刊)、『人生で大切なことは海の上で学んだ』(大和書房刊)など、著書多数。企業や学生向けの講演会なども行う。

いつも幸せで楽しくしているから、
幸せなものが手に入る

白石 今日は、あなたのために2時間使っているから。

PDS どうしよう……。

白石 例えば、ガリガリの人と。太った人がいるとするよね。悪口を言ってみようか。「なんだ、こんなデブ、みっともない」って。ガリガリの人って傷つかないよね。でも、太った人は傷つく。「失礼だな」って。なんで? 同じことを言われているのに、なんでこの人は傷つかないのに、この人は傷つくの?

PDS 自分がそう思っているから?

白石 そう。自分で自分を傷つけているんだよ。俺は「本当に白石、バカだなあ」って言われても、「バカって最高」って答えて、傷つかない。「好きなことを勝手にやって」って言われると、「勝手にやらせてもらっています。最高ですよ。やりますか?」って返す。俺は自分のことをバカだと思っているし、好きなことをやっていると思っているわけ。「お前、いつまでもフラフラして」って言われたら、「いや、世界中をフラフラさせてもらって、すごく楽しいです」って答えるし。「仕事もしないで」と言う人には「いや、仕事もしなくていいんですよ。最高です。ありがとうございます」って返すしね。わかった? 誰が自分の心を傷つけているの? 自分でしょ?

PDS 本当に、そうですね。そのスイッチは、自分しかもっていないんですか?

白石 当たり前じゃん。

PDS ふー。全部、自分なんだ。それもなんだか大変。

白石 答えは、絶対に自分のなかにあるからね。みんな、自分のなかに答えをもっている。スマホをいくら見ても、そこに正解は書いてないから。

PDS 本当にそうだ。やだ、涙が……。

白石 そんなふうに生きると、楽しいし、楽だよ。だから俺の人生、いつでもハッピー。俺は子どもたちにこう言うの。「今からいい話してやる。一生遊んで暮らせる方法を教えてやる」って。

PDS 知りたい、知りたい!

白石 でしょ? 「俺の人生、夏休みだ」って。でも、「知りたいか?」って言っても、今の子どもたちだと半分くらいしか手が挙がらない。そこまでの自信がないんだよね。「そんなバカなこと、あるはずない」って。だから、教えてやるんだよ。一見、苦しそうに見えるけど、俺って幸せそうでしょ? “ああしろ”“こうしろ”って、誰にも指図されていないからね。ただ、何者でもない自分ほど苦しいものはないし、辛いことはないよね。孤独だし。でも、俺は地球上のどこにいようが、まったく孤独を感じない。楽しくてしょうがない。

PDS 面白いなあ。ところで白石さんの周囲には、ご自身と同じようにご機嫌な人ばかりが集まって来るんですか?

白石 そうだね。俺の周りって、みんないい人ばかり。なんでか、わかる? いい人じゃないといられないんだよ。例えば、パーティがあるとするじゃない? 全員、俺の被害者なんだよ。「あんた、いくら取られた?」って(笑)。まあ、俺のレースで儲けようって人はひとりもいないからね。悪いヤツは、「白石さんに関わったら、いくら取られるかわからない」ってビクビクしているけど、本当はさ、お金を出すと幸せになるんだよ(笑)。逆にお金があって、取り合うと不幸になる。そういうのを、俺は何度も見てきたから。儲かった瞬間、「俺の取り分が少ない」「俺がこれだけ貢献した」ってやり出す。だから、俺の周りにいる人たちは、みんな幸せ。

PDS なるほどねえ。

白石 俺の周りに悪いヤツはいられないから、寄ってこないもん。居心地悪いし。悪い人って、居心地のいいところに行くんだよ。

PDS 病気なんかもそうなんでしょうね。居心地のいい体に病気が入ってきそうな気がしますもん。

白石 だから、子どもたちには何も教えないの。人が人を幸せになんかできない。子どもが自ら幸せになりたいって思わなかったら、幸せになれないんだよ。いい? 「私は泳げないけど、子どもには泳ぎ方を教えられる」ってある? 「私は方程式を解けないけれど、子どもには教えられる」ってないよね。「私は不幸なの。でも子どもには幸せになってほしい」っていうのもないんだよ。だから、俺は奥さんにも、子どもにも、周りの若い人にも「こっちに来いよ」「こっちは明るくて幸せだぞ」「どうだ。俺の周りに来い、楽しいぞ、明るいぞ」っていう世界をつくるわけ。自分が太陽になって、周りを照らすんだよ。そこに入って来るかどうかは本人次第。それには関与しないから。

PDS 深いですねえ。

白石 よく「家にいないで、奥さんは寂しがりませんか?」って聞かれるけど、俺は知らない。それは奥さんの問題であって、俺の問題じゃないから。ただ、俺は奥さんに「お前といて幸せだ」っていつも言っている。娘にも「お前は何でもできる。可能性は無限大だ」って言うの。ただ、やるかやらないかは本人の問題だからさ。娘が不幸になるか、幸せになるかも、俺の問題じゃない。「お前の問題だから、自ら幸せになってみなさい」って背中を見せるだけ。俺も自分で幸せになったから。あとは子どもが決めたことを、俺は応援するだけ。何かを「止めたい」って言えば、「そこだけが人生じゃない。自分で決めなさい」って言うし、それを引き留めることもしないよね。

PDS なるほど。

白石 どう? 幸せに一歩近づいた?

PDS はい。これは本当にすごいお話です。

白石さんはライフワークとして「嵐を乗り越える子どもたちを育てる」「子どもたちのたくましさを育てる」をテーマに、情報化社会のなかで育つ子どもたちやその保護者に対して、ただ情報を伝えるだけでなく、体験を通じて“心を磨く”ことの大切さを伝える「勇者の教室」や「海洋塾」などを主宰。“シーマンシップ”に触れることで、困難に逢ったとき、それを乗り越える力をもつこと、志をもって自らの夢を実現する人間に育ってほしいというメッセージを発信している。
白石さんはライフワークとして「嵐を乗り越える子どもたちを育てる」「子どもたちのたくましさを育てる」をテーマに、情報化社会のなかで育つ子どもたちやその保護者に対して、ただ情報を伝えるだけでなく、体験を通じて“心を磨く”ことの大切さを伝える「勇者の教室」や「海洋塾」などを主宰。“シーマンシップ”に触れることで、困難に逢ったとき、それを乗り越える力をもつこと、志をもって自らの夢を実現する人間に育ってほしいというメッセージを発信している。

白石 あとさ、何かを手に入れたから幸せだと思っている限り、何ひとつ手に入らないんだよ。順番が逆だよね。いつも幸せで楽しくしているから、幸せなものが手に入る。“お金を手に入れなきゃ”“出世しなきゃ”幸せになれないって、社長より幸せな平社員がいてもいいじゃない? いけない? 社長より人格者な用務員さんがいてもいいんだよ。“何かを手に入れなきゃダメ”“いちばんにならなきゃダメ”って考えること自体がおかしいんだから。

PDS 本当、そうですよね。

白石 まずは自分が幸せになって、今この瞬間を幸せと感じれば、それと同じようなものが手に入るから。幸せな行動ができるから、当然、幸せなものが手に入るよね。「幸せになりたい」って言うヤツは不幸だよね。俺の言っていること、わかる?

PDS はい。

白石 世間はごまかせても、自分はごまかせないからね。ちゃんと病気になるし、いたたまれなくなる。どんな薬を飲んだってダメ。痛み止めを飲んだって、心の痛み止めなんかないんだから。

PDS そうですね。人間って、正直な生き物なんですね。

白石 だったら、自分で心の灯りを点けるしかないじゃない?

PDS すごい。私、いいこと聞いている。感動が止まらないです。