誰に喜んでもらうためにそれをやるのかっていう、
サービスの本質を考えると絶対にお客さんですよね
Plan・Do・See(以下PDS) ファッション業界って、外からは華やかに見える半面、壊れているとまではいかないまでも、いろんな不具合が生じて困っている会社がたくさんあると思うんです。木村さんは、この業界の今後をどう見ているのか、そのへんの話をおうかがいしたくて今日はやっていきました。
木村 既存のファッションシステムは業界のルールにお客さんが合わせるというやり方だと思うんですよ。ホテルに例えると、“チェックインは何時までにしてください”“チェックアウトは何時までです”という。でも、それって“いったい誰が決めたの?”“誰の都合なの?”って話じゃないですか。全部、運営側の都合ですよね。だけど、誰に喜んでもらうためにそれをやるのかっていう、サービスの本質を考えると絶対にお客さんですよね。シンプルに言うと、徹底的にそっちに目線を合わせていこうというのがALL YOURSの考え方なんです。ファッション業界って旧態依然としている部分が多くて、しかも品質基準とかも独特ですからね。
PDS 例えば?
木村 うちの看板商品に「HIGH KICK」っていうジーンズがあるんですけど、これって百貨店で販売できないんです。品質基準を満たしていないということで……。いろいろ例外をつけて取り扱うこともできるとは思うんですけど、基本的にはB品扱いになってしまうんですね。なぜかというと、すごく伸びるから(苦笑)。
PDS ちょっと触っていいですか?
木村 見た目は100%コットンで重くて硬そうなんですけど、めちゃくちゃ柔らかいんです。それですごく伸びる。伸びて楽なのっていいじゃないですか。ところが品質基準の評価項目のなかに伸張弾性率というのがあって、伸び率は何%以下って決まっているんです。
PDS どういうことですか?
木村 まったく洗っていない状態のジーンズって見たことありますか? ああいう糊付きのデニムってすごく縮むんですよ。でも、製品になってからかたちが大きく変動するものは、売り手が責任をもてないから不合格とされてしまう。このジーンズがすごく伸びる秘密は、縫い上げてから加工して製品段階で20%ぐらい縮めるんですね。わざとサイズを大きくつくって加工で調整するみたいな……。小さくなった分が伸び代になるんです。めちゃくちゃ気持ちいいのに。品質基準って誰のものなのかなって話ですよね。お客さんが困らないようにとか、お客さんが気持ちよく使ってもらえるように、つくり手が気を遣ってちゃんとつくりましょう、というのが本筋なのに、いつの間にかつくり手の都合で、つくり手を守る、売り手が文句を言われないようにするための基準になっているんです。そのせいで、結局、モノとしての進化を自分たちで止めちゃっているんですよね。
PDS ほうほう。
木村 洋服では長年、パターンメイキングがいちばん重要とされてきましたけど、僕はそれって古い考え方だと思っているんです。もともとが伸びない生地に体が入るように考えられている技術なので、100%コットン、100%ウールの洋服を着たときに動きやすいように、どう立体につくるのかというのが基本になっている。でも、いまはそれを生地の伸縮性で吸収できちゃうんですよ。
PDS なるほどねえ。
木村 僕らはもっと気持ちのいい、着心地のいい生地とか、生活のストレスをなくすようなアプローチで、日常の一部になるような洋服をつくりたいんです。そういう部分で、ほかのアパレルメーカーとは考え方がまったく違うと思いますよ。
PDS 普通に生活していたら、そういう考え方になると思うんですが、そうならない人たちがファッション業界には多いわけですよね。なぜなんでしょう?
木村 卸売を前提にすると、相手先の品質基準に合わせないといけないからというのもあるんじゃないですか。でも、僕らはカスタマーにダイレクトに売るのを基本にしているから、自分たちで品質基準を決められる。例えばジーンズの生産ひとつにしても、従来のやり方だと生地屋で決済して、縫製屋で決済して、最後に洗いの仕上げ加工のところで決済するので、3社それぞれが自分たちの持ち場でリスクを担保してしまうんです。だから、どうしても保守的なモノにしかならない。だけどうちの場合は、生地から製品までをトータルで考えるので、製品で生地の変動率をコントロールできればいいじゃんって話ができるんです。そのおかげでわりとムチャができるというか、いままでの商慣習に縛られないで済むというのはあると思います。
他人と同じことをしていても面白くないから、
みんなとは違ったことをしようぜ
PDS 前職では、古い体制の側にいたわけですよね?
木村 そうですね。でも、前の会社にいたときも僕はこういう考えだったので、卸先にも“品質基準をこれだけ特例で認めてください”と交渉をしながらやっていました。
PDS へえ、どうしたらそんなことができるんですか?
木村 僕が、ですか?
PDS だって、みんなはできないわけじゃないですか?
木村 なぜでしょう。音楽が好きだからなのかな?
PDS というのは?
木村 僕、パンクが好きなんです。要は、パンクって現状を疑う音楽なんですよね。その影響が大きいのかもしれません。みんなはそう考えないんですか?
PDS どうなんでしょう。いや、Plan・Do・Seeも考え方がすごく近いので共感できるんですよ。でも、僕はパンクを聴かないので、なぜなんだろうと思って。
木村 みんなと同じことをしていると横並びにしかならないから、はみ出したほうが面白いと思っているからじゃないですかね(笑)。
PDS なるほどねえ。じゃあ、周りに勝とうとか、出し抜こうという感覚は全然ないんですか?
木村 ないですね。他人と同じことをしていても面白くないから、みんなとは違ったことをしようぜ、みたいな考えはもっていますけど。あとは僕、『ほぼ日刊イトイ新聞』を運営している株式会社ほぼ日が大好きなんです。うちの事業モデルを簡単にいうと、“パタゴニアみたいな製品を『ほぼ日』みたいに売りたい”って思ったのが最初で。
PDS うんうん、面白い。
木村 ところで、エバーレーンっていうアパレルメーカーは知っていますか?
PDS サンフランシスコに本社を構える、オンライン発のSPA(製造小売り)ブランドですよね。商品ごとのコスト内訳をオンライン上で開示するっていう。
木村 そうです。あそこって生地や縫製、流通コストがどれくらいで、エバーレーンがどれくらいマージンを取るかまで明らかにしている。そういう透明性に加えて、商品を出すタイミングや季節も従来のファッションシステムにとらわれず、小ロットで売り切る事業モデルなんですよ。そのエバーレーンも“セリーヌみたいな製品をパタゴニアみたいに売りたい”って言っているらしいんです(笑)。要は、基本的に店舗をもたずに中間マージンを省ける分、高品質な商品を手ごろな価格で販売できるというロジックなんですけど。
PDS 面白い。その話に絡んでもいいですか? うちの会社もすごく似ていて、そういう例えをよくするんです。“ハイアットのセンスでオークラの品の良さ”みたいな。
木村 いいですね(笑)。
PDS 僕ら、ハイアットが大好きなんですよ。大好きなんですけど、“ここをもうちょっと”という部分がある。で、オークラも行くと“いつもシャンとするんだけど、そこはこうしたら?”と思うところがあったりする。けれど、それでも両方いいよねって。それで、そのパタゴニアと『ほぼ日』の話をブレイクダウンするとどんな感じなんですか?
木村 まずは今日持ってきた、『ほぼ日刊イトイ新聞の本』(講談社文庫)と『インターネット的』(PHP新書)って本からのインスパイアが大きいですね。
PDS “預言の書”と呼ばれていますもんね。
木村 そうそう。『インターネット的』は何冊も人にあげて、これまで50冊近く買っています(笑)。僕、今年で35歳なんですけど、高校生ぐらいのときにインターネットが世の中に普及し始めた、いわば第一世代なんですよ。『インターネット的』にも書いてありますが、すごく簡単に言うとヒエラルキーのある領域をインターネットが破壊するんですよ。既得権益があるものは全部インターネットがぶっ壊す。で、音楽業界や出版業界で起きたことが、ほかの分野でも起こり得ると考えたときに、洋服ってすごくヒエラルキーがあると思ったんです。なぜかと言うと、ファッションの文脈がヨーロッパ的だから。
PDS と言うと?
木村 ファッション業界をピラミッドに例えると、上のほうの何割かのところに欧米のトップブランドがいて、そういうコレクションを伊勢丹やバーニーズなんかが買うわけですよ。で、真ん中のへんにいるブランドは主にセレクトショップみたいなところが買って、三角形の下のほうにある低価格帯の洋服は量販店が買う。僕らはこれを“伊勢丹からしまむらまで”って呼んでいるんですけど(笑)。僕の感覚だと、頂点の近くにいるブランドがランウェイショーで発表したトレンドが、裾野にいる大多数のフォロワー層にまで届くのにこれまでは3〜5年かかっていたんです。つまり、時差による情報のギャップが商売になっていたんです。だから、知らない人が多ければ多いほど儲かる。だけど、いまってショーがインターネットのストリーミングで誰でも見られるじゃないですか。
PDS バーバリープローサムとかが早かったですよね
木村 そうでしたね。そうすると何が起こるかと言うと、トップブランドがランウェイで発表するコレクションって、基本的に翌年発売される服なんですけど、H&MやZARAみたいなところだと、その最新トレンドの服を2〜3カ月後に店頭に並べられる。そうやってグローバルSPAが情報のギャップをペシャンコにして、いきなりその年にマジョリティ層にまでもってくるようになったんです。つまり、既存のシステムが壊れちゃったのに、ファッション業界っていまだに昔と変わらないことをやっているんです。
PDS なるほどねえ。
木村 そもそも、上から下に情報を流していくって考え方自体が結構、古い感覚だと思うんですよ。スマホを持つようになって、誰も地図を買わなくなったじゃないですか。公衆電話が不要になったでしょ。いまはユーザビリティを重視する時代なんじゃないかなと……。トップダウンで下ろしていくんじゃなくて、ボトムアップでみんなが手をつないでいくという考え方のほうが今日的なんじゃないかと思うんです。ALL YOURSは、洋服が好きな人じゃなくて、うちのブランドが好きな人をいっぱい増やしていきたいっていう考え方なんですよ。
PDS うんうん。
モノを売るんだったらいまはこういうやり方が
いいと思ってやっているだけなんです
木村 それでクラウドファンディングをやっているんですけど。だからここのお店は、僕らが借りましたけど、壁塗りも内装もお客さんにやってもらったんです(笑)。
PDS へえ。
木村 しかも、内装ができる権利をチケットにしてお客さんに売りましたから(笑)。
PDS なるほど。本当だったらこちらが業者さんに発注してお金を払わないといけないのに、逆にもらっちゃうわけですね。
木村 そうです。その分でランチを用意したりしましたけど(笑)。
PDS 面白いなあ。ベクトルが逆になったんですね。
木村 逆と言うか、フラットなつながりにしていくみたいな感じでしょうか。でも、これも『インターネット的』に書いてあったことなんですけどね。
PDS あの本って何年前に発売されたんですか、20年ぐらい前?
木村 初版は2001年です。そんなふうに、うちの事業モデルの話をいろんなところでしていたら、『ほぼ日』を上場させたみずほ証券が訪問に来てくれて、仲良くなってオープンしたらお祝いに観葉植物をいただきました(笑)。
PDS 本当だ。「みんなの場所」オープン記念って書いている。へえ。面白いなあ。
木村 僕はファッション業界をあまり意識していなくて、業界をどうするかって考えるより、モノを売るんだったらいまはこういうやり方がいいと思ってやっているだけなんです。僕自身は量販店というか、流通業界に強い会社の出身なんですよ。株式会社ライトオンというところにいたんですが、モノをある程度、流通させるにはどうすればいいかっていうノウハウはもっている。実は、ファッションにもあんまり固執していないんです。
PDS へえ、そうなんですか。
木村 いまの消費行動を考えたときに、自由度がものすごく上がって選択肢が爆発的に増えているわけじゃないですか。誰が決めたかわからないような流行りを、盲目的に消費する人もいますけれど、それって主体性がないし、まったくインターネット的じゃない。そのなかで、何を選ぶかってなったときに、選び方のガイドをつくってあげたほうがいいなと思ったんですよね。僕ら、結構エシカル文脈で、“なんかエシカルですね”とか言われたりするんですけど、それも全然意識していなくて、長く使えるモノをつくれば結果的にエシカルになるだろうっていう考え方なんですよ。
PDS いやあ、面白い。
これまでのファッション業界の人たちって、
業界ウケを狙い過ぎていたと思うんです
木村 ところで、うちの商品って業界ウケ、全然しないんですよ(笑)。
PDS ははは(笑)。業界ウケの業界って、どこを指すんですか?
木村 ファッション誌とか? うちの商品って見てもらえばわかるように、見た目はまったく特徴がなくて着ている人にしかわからないんです。例えば、これは普通のチノパンに見えるんですけど、洗濯後、部屋干しで約3時間で乾くんです。速乾性が非常に高くて、一般的なチノパンより70%ぐらい軽いのかな。さらに伸縮性もすごくあって……。いいことづくめのはずなのに、これを平置きして写真を撮ってもまったく見映えしないんですよね(苦笑)。でも、既婚者の男性が買っていくと、洗濯がめちゃくちゃ楽だって、あとで奥さんに感謝されるんです。僕らは着用時のストレスだけじゃなくて、メインテナンスのストレスもなくしたいと思っているので。
PDS 買ってくださった旦那さんはもちろん、その先にいる奥様もファンになっているわけですね。
木村 そうそう。そうすると、奥さんが“このパンツはいいから、もっと買ってきて”となる(笑)。ところが、ファッション誌からは“よくわからない”みたいな反応で……。ただ、このチノパンはつくり方としては難しいんですよ。100%コットンに見えるけれど100%ポリエステル。スポーツウェアみたいな機能を日常着にもたせたいと思ったから、そういうつくりにしています。見た目は完全にコットンに見えるように糸をつくり直して、設計もし直したんで、つくり方としては結構凝っているんですよ。
PDS ふうん。
木村 でも、それを説明するのって、結構、文章量がいるじゃないですか。雑誌だとスペースがいるし、扱うのが難しいですよね(笑)。
PDS そかそか。なるほど。
木村 業界ウケは悪いんですけど、僕は業界ウケというのは意味がないと思っていて、プロダクトデザイナーなんかも何かの賞を取ってもいまは全然食えないじゃないですか。
PDS みたいですねえ。
木村 そもそも、これまでのファッション業界の人たちって、業界ウケを狙い過ぎていたと思うんですよ。でも、それが購買につながるというと、まったく別の話ですからね。これってシンプルな話なんですけど、プロの人ってほかの店ではすごく文句を言うのに、自分のことになると言わないみたいなことに似ていますよね(笑)。自分のサービスを省みたときに、飲食店ですごく文句を言うのに、自分のとこでは全然できてないとか。
PDS わかります。サービス業の人ってサービス業に厳しいんですよ。自分のところには目をつむるんだけど、タクシーの運転手さんにとてもキツイとか(笑)。
木村 謙虚に“自分もできていないな”という学びの場になればいいんですけど、あんまりそういうふうにはならないですから。
法律や制度で守られているものって、
インターネットが壊してしまいますから
PDS ちょっと話が変わるんですが、つい先日驚いたのが去年フランスでホテルが800軒廃業したらしいんですよ。
木村 テロの影響ですか?
PDS はい。僕らもそのせいだと思ったんです。そしたら、そうじゃなくって民泊にやられたって言うんですね。確かに、ヨーロッパの人たちはバカンスを長くとるから家を他人に貸すことも、他人の家を借りることにもそんなに抵抗がないんでしょうね。家を空ける時間が長いから。だから上手くハマったんでしょうけど、それにしても800軒って結構な数ですよね。800軒ホテルが潰れるとホテル周りの事業者にも影響が出たり、パリのマンションをもっているオーナーたちも民泊に貸したほうが儲かるから、“来年から家賃は倍ね”とか言って住民を追い出しちゃうんですって。そうすると生活者がいなくなって、学校まで潰れたりしているそうです。
木村 街が空洞化しちゃいますよね。
PDS ヨーロッパの遠い街で起こっている出来事とはいえ、日本のホテル業界にも差し迫っている危機だと思うと、明日は我が身だなと思って身構えちゃいまいますよね。
木村 結局、法律や制度で守られているものって、インターネットが壊してしまいますからね。いまの話もAirbnbの話ですよね?
PDS まさしく。
木村 いまは組織や会社が間に入らなくても、お客さんが自らマッチングしやすくなってしまっているので、あれがダメだ、これがダメだって言っていてもしょうがないですよね。そこのところをちゃんと対応していかないと。
PDS そうですよね。それでALL YOURSはお客様に開発経緯とかも完全オープンなんですか? それも『ほぼ日』由来?
木村 はい、その通りです(笑)。僕がなんでこういう考え方になったかというと、ほとんどが『ほぼ日』の影響。それなりに僕も洋服が好きだったんですよ。昔は結構、買っていたんですけど、あるときまったく欲しくなくなったんです。2009年ぐらいだったかな。
PDS なぜだったんですか?
木村 わからないんです。それをしばらく考えていて、これからどうしようかなと思っていたとき、『ほぼ日』のEコマースでTシャツを買ったんです。今日、着ているこれなんですけど。
PDS ふうん。はいはい。
木村 僕、洋服屋以外でTシャツを買ったのが初めてだったんです。
PDS 普通は買わないですよね。
木村 いまはカフェなんかでもTシャツを売っていますけど、たぶんあのころは売っていなかったんじゃないかな。まだ、サードウェーブコーヒーって言葉もなかった時期ですし。当時は、なんで“ほぼ日”でそれを買ったのか自分でもわからなかったんですよ。それがずっと気持ち悪くて……。
PDS なるほどねえ。
木村 でもその後、徐々にわかったのが、自分はコンテンツで買ったんだなと思ったんですよ。モノを見て買うというより、ストーリーとかコンテクストを感じて欲しくなったんですよね。
PDS ふんふん。
木村 いまはモノづくりの参入障壁がすごく下がっているから、これからはモノをつくれる人じゃなくて、コンテンツつくれる人のほうが、モノを売るのが上手くなると考えたんです。それが、ほぼ日からの影響(笑)。だから、僕らはストーリーを隠さないで全部見せる。ストーリーというか、モノづくりの背景も隠さないで見せるし、考え方とか悩んでいることまで公開するし……。クラウドファンディングのページって見たことありますか?
PDS あります、あります。
木村 あれって事前公開できるんですよ。その段階では支援できないんですけどね。うちがいちばん極端だったのは、何も書いていない状態でまずは公開して(笑)。だんだんアップデートしていく過程をお客さんが見て、“誤字脱字がありますよ”とか、結構指摘してくれたりするんです。“今日、これやらないと間に合いませんよ”とか、ツイッターで怒られたり(笑)。
PDS なるほど、いいですねえ。
株主は事業を応援してくれるファンだし、
カスタマーは商品を買ってくれるファン
木村 うちの会社やブランドに参加したくなる状態をどうつくるかっていうのを、めちゃくちゃ研究したんです。糸井重里さんの本に“正直者は最大の戦略である”って名言があるんですけど、本当にそうだなと思って。だから、何でも正直に言うし……。僕はツイッターで“次はこういうことやりたい”って、経営会議の前につぶやいたりするんですよ(笑)。だから、次の展開をスタッフよりお客さんが先に知っていることがあったりして(苦笑)。やりたいことを実現するために、先に自分にプレッシャーをかけるんです。うちはクラウドファンディングもやっているし、すべてを透明にしていきたい。非上場ですけど、いま、うちの株主って300人いるんですね。株式型のクラウドファンディングで、4時間で約3000万円集まったのかな……。よそからは株主が多すぎて余計な口出しをする人が多いって心配をされたりしますが、僕はそんなのはリスクでもなんでもないと思っていて、まったく逆なんですよ。変な話、非上場だし、一枚数万円の紙っぺらを買うようなもんじゃないですか。だから、まだまだ増やそうと思っています。
PDS なるほどねえ。
木村 むしろ、ファンになってくれているんですよね。うちの考え方とか事業計画にすごく共感して。株主もめちゃくちゃ店にも足を運んでくれるんです。株主は事業を応援してくれるファンだし、普通に購買してくれるカスタマーは商品を買ってくれるファン。だから、僕は株主の数が多ければ多いほど正義だと思っているんです。
PDS 応援団の数ですもんね。
木村 いまは株主が300人いて、クラウドファンディングで支援してくれた人は2500人ぐらいになったのかな。そうすると3000人ぐらいは確実に商品を買ってくれるんです。そしたら、3000人に向けて商品をつくればいいわけですよ。
PDS そっかそっか。事業性が3000人で成り立っているから、常にそのファンに向けた商品づくりをしていけばよくて、そこから先は口コミなんかで広げていけばいいという発想なんですね。株式を他人がもっているんですけど、ほかの上場企業とはその在り方が全然違いますよね。どっちかというと一口馬主とかの感覚ですよね。みんなファンみたいな。
木村 そうです。僕らは株主に決算報告書を提出しているんですけど、クラウドファンディングで売り上げを公開しているから、商品がいくら売れているかというのは全部わかっちゃうんです。だから、あんまり見せたくないという感覚がない。成績悪かったら怒られるのもしょうがないし。親に通知表を見せるようなもんですよね(笑)。そういう考え方なので、全部透明にしていきたくて……。全員が全員、こういうのをやっているのをわかっている状態にすれば、何も隠しようがないですからね。これがいちばんのガバナンスだと思っていて、要は第三者から常に見られている状態ですよね。普通の株式会社はこれを嫌がるはずなんですよ。でも、うちは意思決定もすべて公開しているので。
PDS ともすると、上場とか株を誰かにもたれるのって、会社の自由度が下がるっていう恐れもあるけど、でもいまの意味合いで言うと、別に自由度が下がっているわけじゃなくて、ガバナンスがより強くなっているってことですよね?
木村 一般的に株主のほうを見るとサービスが下がって、顧客のほうを見ると株主からもっと儲けろと言われる。会社経営って常にふた股で付き合っているようなものなんですよね。そうじゃなくて、ベクトルをうちのことを好きで応援してくれる人の一方向にして集中するというか。
PDS 先ほどの話に戻ると、それがインターネットはいろんなことをペシャンコにしたりもするけど、解決もしてくれたりするからってことにつながるんですか?
木村 個人同士がつながれるようになったのもインターネットの素晴らしいところで、昔は老若男女がいる隣近所のコミュニティだったわけですよね。いろんな趣味志向の人がいるからコミュニティってすごく面倒臭いものだったはずなんです。好きなこともできないし……。だから、地縁関係ってすごく敬遠されていましたけど、インターネットってモニター越しに自分と同じような人間がすごくいっぱいいることがわかったじゃないですか。僕らのコミュニティはインターネットでつながっているので、ある程度同じような嗜好性というか、好きなようなものが似た人たちが集まっているから、すごく温かいんですよ。うちがイベントをやって来てくださるお客さんはみんなびっくりするんです。“こんなに温かいイベントは初めてだ”って(笑)。