【4】テクノロジーの時代こそ対面コミュニケーションを

Plan・Do・See(PDS) こんどはSENDを利用しているシェフについて聞きたいんですけれど、どういったレストランが利用されているのでしょうか。

菊池 配達エリアはいまのところ都内の一部です。そのなかでも決まったものを大量発注し、余ったら捨ててしまうようなチェーン店やスーパーではなく、フレンチやイタリアン、創作料理系など個店を中心としたレストランにご利用いただいています。

PDS どんなオーダーが入るのでしょうか。

菊池 基本的には食材を指定してくるのですが、「なんとなく見繕って」というオーダーも多いんです。

PDS 意外!

菊池 たとえばバーニャカウダーをやりたいから、彩りと歯ごたえのいい葉物を10種類”適当”に見繕ってくれとか。僕も飲食店の経験があるのでわかりますが、実は10種類の野菜を重複なく選ぶのって、思いのほか大変なんです。

PDS そうした声はどうやって集めるのでしょうか?

菊池 配送スタッフが配達したときにシェフから直接聞き出してくれます。

PDS なるほど! だから物流を自社で構えているわけですね。

菊池 配送の目的が「届けること」だけであれば外部の企業でもいいんですが、私たちはコミュニケーションが重要だと思っています。普通だったらちょっと余分に届いた食材をシェフに持っていって、いかがですか?とかとかできないじゃないですか。

PDS アプリを使ったサービスなので、システマチックな関係だけかと思ったら、アナログなコミュニケーションを取っているんですね。

菊池 情報はアプリ内の検索履歴やチャットからも取れるんですけれど、それはレストランからのコミュニケーションを待たなければなりません。細かいところですが、この日は出勤が遅いから店先に置いておいてくれればいいとか、そういったコミュニケーションが意外に重要なことだったりします。

PDS 御用聞きみたいですね。

菊池 そのほうが効率も良いですし、いい関係もできてくる。ITで自動化できることと人間にしかできない仕事というのを明確に分けています。これはどの仕事でもいえることだと思いますね。

PDS 利用者にとっては至れりつくせりのサービスですが、登録も無料ですし、配送料も無料ですよね?

菊池 もちろん。だってコンビニやスーパーで物を買うのに入場料取られます?

PDS 確かに。

菊池 5000円以上買わないと配送料取りますよ、というところがあったりするじゃないですか。あれはすごく優しくない。そうすると、だんだん人が離れていく。とりあえず入ってみて、一個からでも買えるし、いつ来てもいいよと言うと自然と買ってくれるんです。

PDS めちゃめちゃ面白い考え方ですね。でも他の事業主がそう設定しているのは売上的に厳しいからということもある気がします。

菊池 採算コストが合わないのは、委託しているから。その辺もちゃんと設計できて、みなさんが利益を享受できるようなシステムを作れているからこそ、私たちは無料にできるわけです。ただ、明確に決めていることもあって、僕らがビジネスデザインとして無理して自滅してしまうということにならないように、配達エリアを制限しています。つまり自分たちができる範囲でやりますという考え方。みんな、無理に大きくしようとしすぎてすり減ってしまってるんです。

PDS 同じようなシステムが全国的に広がるといいですね。システムのフランチャイズ化というか、可能性めちゃくちゃありますよね。

菊池 そういった話もありますね。ただやっぱり、他の人がやろうとするとまだ難しい部分もいっぱいあって今後の課題です。

PDS それからもう一つ面白いなと思ったのが、無農薬を謳うサービスも多いなか、SENDは農薬使っているのもOKですよね。

菊池 もちろんOKです。それは買い手や作り手が選べばよくて、そこにプラットフォームがフィルターをかけるのは違うと思っています。僕らはイデオロギーとかプロパガンダに絶対加担しないというルールがあって。だから、農薬が良いよとも、有機栽培のものが良いとも言わない。ただ、肥料や農薬はこれから世界的にみても価格が上がっていくので、コストの観点から見ると使わない方向に進んでいくかもしれません。

PDS 今度はサービスを利用している農家さんの声もお聞きしたいのですが、冒頭にSENDは「農家のモチベーション生成システム」とおっしゃられていましたが、実際のサービスを展開してきて、農家さんからはどんな声があったのでしょうか?

菊池 いろいろありますね。これまであり得なかったことのひとつに、「次あの野菜作りたいんだけど、予約してくれない?」というのがあります。

PDS 珍しいことなんなんですか?

菊池 これまで生産者は、作ったものを共同出荷場に持っていくだけだったので、作り手の声を直接聞く機会はありませんでした。ほかにも、わさび菜とかルッコラとか香味系の野菜を作っている人に「すごく美味しいですね」って言ったら、香味野菜のスペシャリストと名乗って活動を始めた方がいらっしゃいました(笑)。

PDS すごい! モチベーションだけでなくタレント性も生み出したんですね(笑)。

プラットフォームは世界へと展開していく

菊池 じわじわと農家の方たちにいい結果を出せているんですが、まだまだ可能性は十分あると思っています。近い将来はすべての農家で一人分の雇用を生めるぐらい、出荷量を上げられるようにしたいですね。

PDS SENDを展開しているのは日本国内ですが、いま和食が世界でも注目されるなかで海外への展開も考えられますよね。

菊池 他国の食文化が入ってくると同時に、原料の現地生産ということがあります。おっしゃっる通り、和食は世界に輸出されていますが、海苔やシソ、ネギ、わさびなど、原料の現地生産がすごく遅れています。日本でいま、西洋野菜が盛んに作られているのと同じで、和の食材の現地生産化が本来進むべきはず。なので、食文化の移動とともに、作付けの移動みたいなところまで私たち支援できれば、本当の意味で食文化の交流ができるのではないでしょうか。

PDS ひとつのサービスが農業の問題を解決する糸口になるばかりか、さらなる発展の可能性を生み出そうとしているんですね。

菊池 農業をソーシャルな課題だったり、悲観的な未来だと人は見るかもしれないけれども、僕たちは課題解決のためというよりは、農畜産業が魅力的で「未来がある」と思っているからやっているんです。役回りはサポーターのような位置ですが、僕らも「農業を支える仕組みの作り手」としてクリエイティブでいたい、と思っていますよ。

PDS お見事ですね! 今後の展開に期待しています。ありがとうございました!