Plan・Do・See(以下PDS) これまで統計学を研究されてきて、西内さんの知りたかった「人間」はわかるようになったのでしょうか。
西内 わかる部分も出てきましたね。もともと「人間が起こす行動の理由」について興味があったんですが、最近では体系立ててわかるようになってきました。これまで、人間のさまざまな行動の理由を、各ジャンルの学者がバラバラに発表していましたが、2000年ごろになって「統合行動理論」としてまとめられました。
PDS 統合行動理論?
西内 それによると、人間のほとんどの行動の理由として大きく3つに注目することが重要視されます。「その行動に対して自分がどのように評価するかという “態度”」、「まわりがやっているかどうか、あるいはやるべきと考えているかという “規範”の意識」、「やろうと思ったときに、できる気がするかしないかという“コントロール感”」の3つです。
PDS なるほど。
西内 もともと医学の世界にいたので、そのなかの研究に喫煙をテーマにしたものがありました。例えばタバコを吸う人に対して喫煙へのイメージを調査すると、「リラックスできる、かっこいい、肌に悪い」など、ポジティブとネガティブ双方の意見が集まります。
PDS どの意見を主張しているかで喫煙との関わりが統計で整理されて、態度や規範をもとに禁煙促進のキャンペーンを打つことができそうですね。
西内 そうですね。ちなみに、20-30代の女性向けの禁煙促進広告キャンペーンに「タバコを吸うと妊娠の確率が低下するのでやめましょう」というものがよくありますよね。実はあれは逆効果だと私のデータでは出ているんです。
PDS え!? 逆効果なんですか? 正しいアプローチのような気もしますが。
西内 結婚して家庭をもって、そろそろ子どもが欲しいという夫婦には効果的ですが、そうでない女性たちにとってはいま妊娠しては困るわけです。つまり、子どもを望んでいない多くの喫煙者の女性に対して、「喫煙=避妊に繋がる」と考えられてしまうと禁煙する気が失せてしまうんです。
PDS なるほど……。そういう見方もできるわけですね。
西内 ちゃんとデータにすると、こうした意外な事実が顕在化してきます。このように、人間全般となるとよくわからないことも、特定の人々の特化した行動に絞って統計を取ると見えることもよくあるんです。私たちの仕事でも、新しい商品を買うお客さんとそうでない人の違いを見ていくと、なるほどと思うような新しい発見がありますね。
PDS 一方で統計学が役立たない分野もあったりするのでしょうか。
西内 一発勝負のところですね。結婚するにあたって試行回数を重ねて一番よかったあの人に、というわけにはいかないですから(笑)。ですが、結婚した夫婦がうまくいくデータはあったりするそうです。ケンカの回数が多いだけではそれほど離婚するリスクに繋がらないんですが、ケンカになったときに一方的に話を打ち切る関係になってしまうと離婚しやすいというような。
PDS 意外なところにも統計学が使われているんですね! ちなみに、「分析」といってもその複雑さに幅があると思うのですが、どのように分けられているんでしょうか。
西内 ざっくりいうと初心者向けはエクセルでグラフ描くようなシンプルなもので、そういった市場はBI(ビジネス・インテリジェンス)と呼ばれ、比較的誰にでも扱えるようなものです。一方、専門家が使うような高度なツールでは、いくつもの項目を作用させて分析していく必要があって、それを加工、修正し、数値化することにはかなりの時間を要します。ならば、この複雑な部分を自動化してしまおうということでうちのソフトができたわけです。データを解析して知見を得る目的のほかにも、AIの仕組みやアルゴリズムを構築する際に活躍するんですよ。
>>>【3】ビジネスシーンで役立つ統計学 につづく