Plan・Do・See(以下PDS) 統計学のほかに、西内さんのツイッターがとてもおもしろかったです。あらゆる出来事をユニークな視点から持論を展開されていて興味深く拝見していたんですが、最近気になるトピックなどありますか?

西内 去年ぐらいから歴史がマイブームですね。歴史といっても、戦国時代や江戸時代などについて思いを馳せるのではなく、人間が動物をいかに使いこなしてきたかであるとか、石鹸やガラスのような、自分たちの身の回りに当たり前にあるようなテクノロジーがいつどうやって生み出されたのかというものです。例えば、ラクダやロバといった動物がたまたま特定の地域に生息して飼い慣らすことができた、というのが歴史に大きな影響を与えていたりするのがおもしろいですね。

PDS 統計学とはちがうジャンルにも興味がおありなんですね。

西内 医学の歴史も面白いですよ。中世ヨーロッパでは宗教的な理由などから解剖が禁止されていたので、古代ギリシャの知識だけで医療が行われていました。四大元素説といって、火と空気と土と水が世界を構成していて、それらと人間の体液の適応で……という、もはやファンタジーな医療行為をしていたんです。

PDS そんな時代があったんですね。

西内 おまけに消毒もしていない状態なので感染症も当たり前で、麻酔もないので外科手術も悲惨な状態だったわけです。そこへ人間の身体を理解することに興味を持った人物が、夜な夜な解剖をし出す。現代のように献体の仕組みなどないので、墓荒らしから遺体を手に入れていたそうです。薬なんかも、先駆者が実際に口にしたりして試すことで効き目がわかったり。その好奇心はいったいどこからくるのでしょうね。

PDS もはや統計学に収まらない好奇心をお持ちで、活動もその範疇に留まらないのではないですか?

西内 そうですね。私のパソコンには「行き場のない企画書」というものがあります。そのうち会社が大きくなって新規事業に投資できるようになったら実現させたいビジネスプランがいっぱいそこにしまってあるんです。

PDS えー! どんな情報なんですか!?

西内 では、自分の中でボツになったアイデアをひとつ(笑)。「サブスクリプション型のドラッグストア」というコンセプト。まず、ドラッグストアで買い物をするって面倒ですよね。洗剤やらシャンプーやら歯ブラシやらが切れる度に買いにいかないといけない。そして商品のパッケージって往々にして派手なんです。もちろん手にとってもらうための仕掛けという理由もあるんですが、ホテルなどのトイレタリーのパッケージがシンプルなように、派手な見た目がインテリアにそぐわないわけです。なので、愛用の商品がシンプルなパッケージで、毎月定額で、ちょうど必要なものをAIが判断して定期的に届く仕組みがあれば、需要はありそうなのにと思っていたりします。

PDS 西内さんも、そうした先人のように身の回りのものすべてに「なぜ?」と疑問を持って生きている方だと思います。

西内 確かに、幼い頃からはじめて目にするものがあると、まずその構造や製造方法について考察していました。

PDS 人生を合理化するための思考を自然とされているんですね。

西内 基本、怠け者なので、面倒なことがあるとすぐ解決したいと思うんですよ(笑)

PDS 行動が伴っているので、決して怠け者ではないと思います。積極的に行動を起こせるのは、明確な目標があるからでしょうか?

西内 経営者なので数年先を見据えた事業計画などは考えてはいますが、長期的に私自身が何者になりたいかはあまり考えてはいません。ただ、何よりも不毛なことが好きではないんです。大学教員時代は自分が出る意味が全く理解できない会議などもしばしばありました。会社だって既存のソフトウェアの煩わしさを解消するべく創業したわけです。

PDS それこそ、通勤時間も煩わしいものだったりするのでしょうか?

西内 そうです。だから基本的に職場と住まいは近場にしています。大学生の頃から大学の裏に住んでいて、昼時になると家に帰ってご飯を食べていたり。結婚したいまも、会社すぐ近く、ファミリー向けとはかけ離れたような立地に住んでいます。これは生まれながらの気質ですね。

PDS  通勤時間を敢えての余白と捉え、何もない時間を大切にする考え方もありますよね。

西内 そうですね。私も自宅でぼーっと考えごとをする時間が好きですし、そういった時間は大切ですね。

PDS 西内さんの思考回路を覗いてみたいです。ツイッターに話を戻しますが、その中で「大人が若者に『好きなことを仕事にすると辛い』とアドバイスする人をしばしば見かけるが、『好きなこと』をどう捉えるかで話が変わってくる」と話題に共感していまして、この点について詳しくお聞かせいただけますか?

西内 そのツイートをより正確にいうと、「テンションのあがる“動詞”を3つ程度整理してみるとやりたいことが見つかる」ということです。私の場合は、「考える、整理する、それらをわかりやすく表現する」です。これは仕事のときでもツイッターやっているときでも共通していて。例えば映画が好きという人が映画業界で働けばいいかというと、必ずしもそうではない。なぜ「映画」が好きなのかを考え、お気に入りの作品を「語る」ことが好きならば、映画に限らず、ヒトやモノやサービスを「語る」仕事が天職かもしれません。例えば何か自分が大好きな商品に関われる営業というのもそれにあたるでしょう。

PDS 統計学は今後の社会にどのように作用していくと考えていますか?

西内 いま流行っているAIの仕組みは、裏側ではほとんど統計解析と同じ仕組みです。人間が正確に行なっていることを自動化して人間が楽になるのがAI。自動化しにくい仕事のうち何が関係しているのかを明らかにし、人間が非定形に思考するヒントを与えてくれるのが統計分析です。

理系はエンジニアリングの面で今後AIの基礎知識が必須になるでしょう。他方、いわゆるホワイトカラーの人々は非定形な意思決定において誰が責任を持つかでお金をもらっているわけですから、今後はみんなが統計学の知識を持っていることが普通になるでしょうね。

PDS 最後に、西内さんにとって「働く」とは?

西内 難しいですね。そもそもいましていることも、仕事というよりは趣味みたいな感覚です。とても忙しいですが、それこそ天職だと思えることができています。自分がしたいことに集中できるような環境が大切ですね。