Plan・Do・See(以下PDS) まず、現在のなさっているお仕事について教えてください。

西内 2010年まで統計学を大学で教えたり研究したりしていましたが、もっとダイレクトに自分の知見を役立てたい思い、大学の教員を辞めてビジネスに統計学を活かす道を探りました。「ビッグデータ」という言葉が流行り出した時期ということもあって、先輩の伝手などを介して実際に分析やコンサルティングの仕事を請け負うように。そうしたノウハウを活かしたソフトウェアを作るために2014年につくったのが株式会社データビークルで、いまはここの経営が生活の中心です。

PDS  独立当時は、どういった依頼があったのですか?

西内 ビッグデータへの取り組みが勝敗を分ける時代を見据えて、その運用に至るまでのプロセスを整理したり、データ分析ができる人材の育成、分析がより自由にできるような環境の設計、私が自らデータを分析して結果を報告するような仕事などをしました。また、いまでいうAIのような機械学習を使ったウェブサービスをつくることや、自動的にオススメの商品を見つける機能なども実装しましたね。

PDS  プログラミングもできるんですね! 統計学者としては当たり前なんでしょうか?

西内 いまはプログラミングで統計解析をしているので、得意不得意は個人差があるにせよ、統計学に携わる学者は割とみんなプログラミングができますよ。私の場合は学生時代にITベンチャーの立ち上げに携わり、ひとりでサービスに使うデータベースの設計をしていた時期もあったので得意なほうかもしれませんね。

PDS  時代の要請に応えて、なんでもできてしまう。すごいですね。

西内 分析をして結果を伝えることは、私がいなくとも仕組みさえあればできるはず。そう考えて、分析を支援するためのソフトウェアをつくりました。しかしいざそれをBtoBで売るには、ITの営業のノウハウがなければなりませんでした。

そこで、上場したITベンチャーの営業責任者の方をメンター的役割も兼ねて、私の会社にヘッドハンティングしたんです。国産のソフトウェア業界は、なかなかそれだけでは生き残れない実情があります。それでも、世界に発信できるソフトを開発できる会社にしたいと思っています。

PDS  同じ業界に競合はいるのでしょうか?

西内 たまたま先日、国際的なITの調査会社のリサーチャーの方が弊社にいらっしゃったんですけど、「4年前からあったとは思えないし、いまでも世界に競合らしい競合がいない」と言われたこともあるくらいです。専門家が使うための統計解析や機械学習のツールは古くからあったのですが、高度な手法や面倒な操作を自動化して多くの人が使いこなせるようなビッグデータ解析ツールは貴重で、業界に競合がいないようです。

PDS  その隙間をビジネスチャンスと感じて起業するに至ったということでしょうか?

西内 そうですね。色々な企業の分析基盤を手がけていた経験から、需要があるということは認識していました。こんなソフトがあれば便利なのにと。

PDS  そういったソフトがいままで作られてこなかったのはなぜでしょうか?

西内 データ分析をしたことがある人はたくさんいたのでしょうが、私のように吐くほどデータ分析をした人がいなかったからかもしれません(笑)。私の恩師は医療系のデータ分析の第一人者で、彼の元には日本中から依頼が届いていました。一人では捌き切れないということで21歳ときに私もバイトとして手伝っていました。そこから現在に至る16年間は毎週のように新しいデータに触れて分析と報告を繰り返し続けているわけです。

PDS  データに触れ続けた半生を送られていたのですね。その道に進もうと思ったきっかけはなんだったのですか?

西内 小学生のころから、人間を理解したいという願望があったんです。

PDS 小学生のころから! どうしてそんな考えに?

西内 「なんでこんなにも他人と話が通じないのだろうか?」って思っていたんです。例えば、「先生のあの言葉はこんな意図があっておもしろいよね」って友だちに話しても「どういうこと?」って返ってくることが多くて。そこからどうやったら人間を理解できるようになるんだろうと考えるようになっていきました。

PDS 小さいころそんなこと考えたこともなかったです(笑)

西内 それで東京大学の生物系のところに進学して脳科学や遺伝子などの勉強を始めてみたんですが、それでもあまり人間のことがあまりわからず。そこで方向性を変えてみて、心理学や社会学、経済学を勉強し出したところ「これだ!」と。

PDS そこから統計学を学んでいくようになったんですね。

西内 それらの学問のうち、自分が興味を引かれた研究にはほとんどすべて統計学が使われていたので深く学びたかったんですが、日本に専門の学部がなかったんです。そんなときに、医学部でも統計学を教えていることを知って、医学なら人間全般に関わる統計学を学べるだろうと考えて、医者になるためではなく、統計学を学ぶため医学部に進学しました。だから統計学以外の医学系科目の成績はすごい凡庸でした(笑)

PDS  周囲はやはり医者を目指す人ばかりだったのですか?

西内 いや、よく医学部卒だっていうとよく勘違いされるんですけど、自分が所属していたのは一人ひとりを治療する医者になるための学科じゃなくて、研究を通して社会全体を健康にしようというパブリックヘルスを学ぶ学科なんですね。例えば統計学以外ですと、病気のメカニズムのことを学ぶ人や医療倫理のことを学ぶ人などもいます。

PDS  人間を知るために統計学の道を進んだんですね。

西内 一人ひとりを見ていてもわかりませんが、何十、何百と集めてみると人間特有の傾向が見えてくるんです。

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