【2】レッテルが人をつくる

Plan・Do・See(PDS) 不登校になった竹内少年は、どうやって復活したんですか?

竹内 「お前はルールを守れない、デキない人間だ」というレッテルを貼った先生がいた一方で、「お前はデキるやつだ」という良いレッテルを貼ってくれた先生がいたんです。当時の担任だった先生で、東北大学の理学部出身という、当時としては珍しい経歴の方でした。その方が僕を、杉並区にあった「科学教室」に入れてくれたんです。

PDS 「科学教室」というと、とくに当時ならば頭のいい子、理科が得意な子が行くというイメージがあります。

竹内 そのとおりです。いや。僕はまったくそうではなかったんですけどね(笑)。実はその担任の先生が科学教室の創始者で、コネでいれてくれたんです。すると、周りのクラスメイトが僕を見る目があきらかに変わったんですよ。

PDS 「科学教室に入れるなんて…竹内って実は頭がいいんじゃないか」と?

竹内 ええ。良くも悪くも、レッテルが人を作るんですよね。子供の場合、その起点が先生になることがとても多い。僕の例でいえば「漢字もできない」「成績が悪い」「言ったとおりに絵を描けない」…。こうしたダメ出しばかりされて、そのまま落ちこぼれのレッテルを貼られました。

PDS 周りの子どもたちもそれを見ていますしね。

竹内 そうなんです。そして周りも「あいつはバカなんだ」と認識して、実際、バカにしはじめる。すると本人も「自分はバカなんだ」と思い込み、「どうせ俺はできないから」「勉強してもムダだ」と何をするにも心理的な呪縛を自らつくりだして、自分の可能性をしばりつけてしまうわけです。

PDS しかし、担任の先生が、「こいつはデキる」というレッテルを科学教室に入れることで貼ってくれたわけですね。

竹内 はい。そして、僕自身もこの教室で学んだことで勉強の楽しさに触れ、自信を取り戻し「科学の世界で生きていきたいな」と思うに至りました。思えば、僕がその後、理学博士となり、サイエンス・ライターとなる道は、この時の先生のレッテルが起点となっている。先生にはとても感謝していますね。

サイエンスライターとしては『99.9%は仮説』などのベストセラーを。テレビやラジオ、講演などにも引っ張りだこの存在に
サイエンスライターとしては『99.9%は仮説』などのベストセラーを。テレビやラジオ、講演などにも引っ張りだこの存在に

PDS こうしたご自身の日米での小学校での体験は、『YES International School』創設の土台になっていそうですね。

竹内 そうですね。もっとも、なぜ学校を創ったかといえば、直接的には「娘に入って欲しい小学校が無かったから」なんですよ。

学校が無かったから、創るしかなかった。

PDS 入って欲しい小学校が、無かった?

竹内 ええ。仕事がら、最先端のサイエンスの話、それが導く世の中、必要になるスキルなど、「未来予想」のようなものに触れる機会が多いわけですね。すると約束された未来として「第4次産業革命」がある。

PDS 第4次産業革命? サイエンス・ライターの竹内さんっぽい話になってきました!

竹内 AI(人工知能)とロボットがさらに進化して、今ある人間の仕事の多くを奪う、ということです。そして2045年には人工知能が人間の知能を超える「シンギュラリティ(特異点)」と呼ばれる状況が生まれるとされています。余談ですがシンギュラリティは2100年、あるいはもっと遅くなるという専門家もいますが……。いずれにしても、そうなった時に必要なのは、自分より賢くなったAIと一緒に仕事をするための準備をすること。そのための学力を身につけることです。

PDS …とおっしゃいますと?

竹内 「数学プログラミング」「英語」「日本語」の3つです。ご存知のとおり、AIは機械学習をすることで人間以上の知能を手に入れます。そしてそのAIを設計したり、機械学習をさせるには人間の手が不可欠。そこで必要になるが、プログラミングです。ようするにプログラミングを理解していることは、AIとの距離をぐっと縮める。将来、AIを使う、あるいは一緒に仕事をすることをとてもスムーズにさせるツールとなることは明らかです。また、プログラミングの基礎には数学言語があるので、私は「数学プログラミング」と呼んでいます。

PDS 英語と日本語は?

竹内 進化を続けているAIですが、苦手なのがコミュニケーションの領域です。今後も人と人をつなぐコミュニケーションの重要性は残り、むしろ強まる。そう考えるとコミュニケーションツールとしての言語の重要性は高まります。さらにグローバル化は進むでしょうから、日本語のみならず英語は当たり前のように使える必要が出てくる。さらにインターネット空間はほとんど英語化されているので、情報格差を乗り越えるためにも英語が必須です。また正解のない答えを導くような思考力が強く求められるため、「思考言語」としての日本語も駆使できる力も不可欠になるわけです。

英語、国語、プログラミング。言語もロジックも融合させて「先が読めない時代」を生きる子どもたちのための授業をする
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PDS なるほど。だから『YES International School』では「英語」「日本語」「プログラミング言語」という3つの言語、トライリンガルを掲げていらっしゃるわけですね。ところが、それを教えてくれる小学校が無い。

竹内 ほぼありませんでした。均質な学力を身に着けて、命令をしっかりと実行できる人間、マニュアルに従って動ける人間をつくる。そんな明治期にプロシアから入ってきた教育をベースに、未だに設計されている。変化の少ない時代であれば、それで良かったんです。

PDS しかし、今はイレギュラーしかない。先が読めない世の中になっていますね。

竹内 そのとおりです。ルーチンな部分はAIにまかせて、それ以外を人間が担うことになる。だから世界的にも「探究型」「アクティブ・ラーニング型」の授業が増えています。それを実現したうえで、先程の3つの言語をしっかりと学べる小学校ならば、うちの娘も入れたいし、保育園の他の保護者の方々も「それなら入れたい!」と言ってくれた。無いのならば、創ってしまおうと。

PDS とはいえ、その「創ってしまえ!」という感覚が、すごいというか、フツーじゃないです(笑)。

竹内 ベンチャー起業家の友人も多かったので、どこかで影響されたところはあるかもしれません。まあ、そのせいで起ち上げで大変な苦労をしてしまうわけですが(苦笑)。

 

>>>【3】スモールスクールへ形を変えた理由。 につづく。