【3】スモールスクールへ形を変えた理由

Plan・Do・See(PDS) 著書の『子どもが主役の学校、作りました』を読むとわかりますが、理想の小学校を創るということは、こんなに大変なのかと驚きました。

竹内 そうでしたね(笑)。というのも、当初は今のようなスモールスクールではなく「一条校」と呼ばれるものを作ろうとしていたんですね。

PDS え~っと、学校教育法の第一条で定義される小学校だから“一条”校。文科省のお墨付きを得るということですね。

竹内 ええ。そのためには学校法人の許可を受けることになり、教室や校庭の面積、教員の数、保健室、図書室など細かな必要項目がありました。文科省の友人に聞くと私が起ち上げようとしている横浜であれば「最低10億円のキャッシュがいる」ということでした。

PDS 10億! 先生も全員教員免許が必要なんですよね。

竹内 とても高いハードルです。しかし、その後、国家戦略特区を使えば株式会社として学校が起ち上げられると知りました。資本金も5000万円で済むと。

PDS それでも5000万円ですか…。

竹内 そう。加えて、内閣府、文科省、そして横浜市教育委員会、それぞれへ事前説明をして内諾を得る必要がありました。この「三角行脚」がまた大変で。半年から9ヶ月の間に、100回以上はこの三者を行き来したんじゃないかな。

PDS しかし、その甲斐あって、三者からゴーサインをもらいましたよね。そしてこのタイミングで、衝撃的な事実を知ってしまう…。

竹内 マジか、と思いましたよね(苦笑)。

PDS 出資を約束してくれていた経営者の会社の従業員から「あの会社はブラック企業なので一緒に学校を創るのはやめたほうがいい」と、助言されちゃったんですよね。

竹内 そのとおりです。でも最初から「そうですか」と納得したわけじゃありません。ブラック企業の定義もいろいろあるし、彼らの話をそのまま鵜呑みにできるか、という思いもありました。何より100回の役人への陳情の末にやっと手が届きそうになっていた学校開設が、フリダシに戻るわけですからね。

PDS しかし、結局、フリダシに戻したわけですよね? その経営者の方からの出資は断り、一条校を目指すことをやめる。そして現在の「スモールスクール」へと方向転換されました。一番大きな理由、譲れなかった理由というのは?

竹内 やはり「子どもたちのためにならない」ことに尽きますね。従業員にブラックの待遇を強いることで、利益を得るような人物は、そうした「子どもたちの未来のために…」という理念が希薄になるはず。仮に目をつむって一条校を創っても、そこで働く先生方はやはり搾取されるかもしれない。そんな先生が、子どもたちに本気で愛情を傾けられるか、と考えたらこれはもうあきらめようと。

PDS 娘さんと同じ保育園の保護者の方はどのような反応だったんでしょう?

竹内 当初は20人くらいの方が、私が創る一条校へ入学するとおっしゃってくれていました。しかし、このタイミングで、家庭で私が娘に教える「ホームスクール(在宅教育)」のスタイルに、一学年10人程度の他人の子どもを受け入れる「スモールスクール」をかけ合わせてやることにします、と伝えました。結局、校庭もない横浜駅近くのビルの小さなワンフロアが校舎になりました。それでも5人の方が残ってくれました。すごい決断をしてくれたと思います。うれしかったですね。

チームも授業も8人がベスト

PDS ところで、学校としてはフリースクールと同じ扱いですよね。中学や高校などへの進学に制限はないんですか?

竹内 文科省の学校指導要領にのっとった内容はしっかり網羅しているので問題ありません。一条校ではないからといって、中学進学ができないわけではない。唯一できないのが、国立大学附属中学への受験です。文科省の「直轄」ですからね。

PDS 1クラスの人数は?

竹内 横浜校には16名ほどがいますが、なるべく8人程度の少人数単位のクラスで授業を実施しています。一人の先生の目が届く理想は8名くらいだと思っているんです。裏返すと、通常の公立小学校は一人の先生が30名を見ている。それは目を届かせるのは厳しいですよ。

PDS チームマネジメントも8名くらいが程よいって言われますけど、大人も子どもも同じなんですねぇ。

竹内 そうだと思いますね。とくに私たちのような「探究型授業」「アクティブ・ラーニング」を実施しようとすると、8人前後が理想です。

授業は8人ほどの少人数を目安に進められる。「それくらいの人数がベスト。それ以上になると先生一人の目では行き届かない」
授業は8人ほどの少人数を目安に進められる。「それくらいの人数がベスト。それ以上になると先生一人の目では行き届かない」

PDS 「探究型」授業について、もう少しくわしく教えていただけますか?

竹内 与えられたものを覚えるのではなくて、子どもたちが自分たちの力で探求して、答えを求めるスタイルの授業です。例えば「産業革命」を学ぶとしたら、教科書を開いて「18世紀から19世紀にかけてイギリスではじまり、1844年にエンゲルスが広めた…」などと丸暗記しても、試験が終わった段階で9割は忘れますよね。

PDS 間違いなく、忘れていました(笑)。

竹内 しかし、自分で調べて、友達と議論をしながら、あらためて「産業革命とは何か」を発見するんですね。数学でもただ公式を覚えるのではなく、たとえば1から100までを瞬時に足す公式を発見したガウスのように、どのような公式が成り立つかを探し、議論して、見つけ出す。こうした探求による学習は、楽しく、喜びもあるから忘れない。また、その探求するプロセスは、他のあらゆることにも使える。

PDS それこそがイレギュラーなことだらけのこれからの時代に、本当に使える武器になるわけですね。

 

>>>【4】やりたいと思ったことを貫け。 につづく。