Plan・Do・See(PDS) お話を伺っていると、遠近法とか錯視とか、別にそれを学んだから試したというよりも、お客様がどうやったら楽しいかを考えた末にたどり着いたという感じですね。
中村 人間というのは、本当に目で見ていないよね。脳で見ているから、目はただのレンズって言うじゃない。だから、さっきの遠近法の錯視もうまくいくんですよ。
PDS お客さんが見ているのが魚じゃなかったんだというのも、すごい気づきです。
中村 うん。魚じゃなくて、水中の雰囲気を感じに来ている。水中体験ができると思って来ているんです。そう気づくと、いろんなことが分かった。夏になって突然、人が増えるんですよ。夏休みの子どもも増えてんねやけど、子ども連れが増えてるだけやなく、大人だけのお客さんも増える。
PDS へぇ〜。
中村 なぜか。暑いから涼しそうなところに行きたいだけの話です。涼しそうな雰囲気を感じるのって、水族館しかないわけよ。
PDS 水を見ていると涼しくなる、それは間違いないなぁ。
中村 リニューアル前のサンシャイン水族館で、一番の弱点は屋上であることだったの。昔はテント屋根をつけても良かったけど、今は新たにつけてはダメなんですね。すると、夏はめちゃくちゃ暑いわけです。日差しがすごくてお客さんが出てこない。それにアシカショーも水のないアシカショーでした。
PDS なんだか、かわいそう……。
中村 水のないステージを作るなんて、弱点を生かすのではなくて、よその真似事をしようとしているだけ。水がないのに勝てるわけないやんっていうね。弱点を克服しようとしているわけで、さっきの話で言うと一番悪い例。
PDS 確かに。
中村 それでもショーの時だけは人が出てくるんだけど、終わった途端に全くいなくなる。じゃあ、どうしたか。まず、本来は改装する予定ではなかった外の広場を改装しました。そこにお客さんが入れば、もっとお客さんを呼べるだろうと。何しろ、外の広さが屋内の2倍あるんやから。それで「天空のオアシス」にしたわけです。
PDS そういう流れだったんですね。
中村 オアシスなんだから、広場を緑化しましょうって。要は、涼しく見せればいいんですよ。人間というのは、涼しく見えるか暑く見えるかで、涼しくなったり暑くなったりする。
PDS 結構、単純なんですね。
中村 そう、僕らは単純にできてるんです(笑)。緑に加えて水を使ったキラキラがあると、もう本当に日本の夏でこの屋上だけなぜ涼しいんでしょう、って具合になっちゃう。
PDS 本当。またいつでも来たいと思っちゃいます。
年齢ではなく、センスに訴える
PDS 大人が楽しめる水族館だなぁというのが、今日の一番の感想でした。そうは言っても、今まで通りに子どもたちも楽しめますよね。
中村 そんな大人だけを狙った「アダルト水族館」みたいな気持ち悪いもの、作っちゃいけませんよ(笑)。いくら99パーセントの子どもたちの行きたい先が動物園であっても、水族館が子どもたちを捨てたらあかんって。
PDS なるほど。
中村 完全な子どもマーケットではない限り、子どもだと思って見ないことです。年齢じゃないの。センスで見なくちゃいけない。
PDS おっしゃる通りです。子どもをちゃんと見ていると、本当にそれぞれですよね。
中村 そう。子どものマーケットって、すごく曖昧なの。例えば、親が買ってきた服を「もう嫌や」って言い始めたら、何歳であってもその子はもう大人なんよ。自分自身の生き方を持っている。親のセンスがダサいと思っているわけだから。
PDS (笑)
中村 自分のセンスがいいと思っている。そんな子たちはもう、絶対に大人のセンスを持ってます。
PDS そうしたセンスにもかなう水族館だと思います。ちなみにビルの屋上ではなく、もっと恵まれた条件の水族館でやりたいことって何ですか?
中村 今、中国で水族館を作っているんですが、何でもできるというのはかえって面白さは全然ないんですよ。
PDS 制約があった方が面白い?
中村 結局、中国のプロジェクトはサンシャイン水族館を見て気に入ってくれて「そのでっかい版を作りたい」ということなんですよ。だから、新たなことってほとんどやっていなくて。それが物足りないよね。
PDS やっぱり、どうしても裏道を探したくなるんですね。
中村 そう思いますよ。例えば、ここはビルの中なので重量制限があるから、たくさんの水は使えないんですね。最初の大水槽、床を削って水槽から50cm下げていたのに気づきました?
PDS あれっ、水槽に目を奪われていたけれど、そう言えば階段を降りました!
中村 すごく高くまであるように感じるけれど、実は、膝の高さよりも上に水があるので、高さを稼いでいるんですね。
PDS うそっ、すごい!
中村 (笑)。そんな地道な努力を重ねているわけですが、やっぱりそういうのを考えるのが面白いじゃない?
PDS そうした創意工夫のアイデアを盛り込むことが、きっと水族館をプロデュースするお仕事の醍醐味なんですね。これから何倍も水族館めぐりが楽しくなるような素敵なお話、今日はどうもありがとうございました!