Plan・Do・See(以下PDS) アスリートが引退後の仕事に悩まされるということですが、現役のときには多くの応援者もいて、手助けになるようなことはないのでしょうか。

為末 アスリートのモチベーションは「勝負に勝ちたい」という気持ちから起こってきます。その気持ちの強さが結果的にいい成績につながって応援者が増えたりするんですが、ここでまた問題があって、引退間際になると彼らは応援者であってサポーターではなかったということに気づかされるんです。

PDS ひとりの人間としての応援ではなく、アスリートとしての応援だったということでしょうか。

為末 そうです。僕がほかのアスリートを見ていて一番苦しくなるパターンはそこです。引退しても現役のときの熱量で彼らがついて来てくれると思ってしまうところがある。

PDS 当人とまわりの感覚のギャップというのはよくありますよね。私も高校生のときにサッカーで全国大会までは行ったことをはっきり覚えていて。状況を冷静に引いて見ている自分と、周りの大人の異様なアガり具合の温度差をすごく感じました。為末さんはそれこそ、世界陸上でメダルを獲られたわけですから、そんなことはなかったんですか?

為末 僕の家ではなかったですね。活躍して世間がヒートアップしていくのと逆行するように、家庭は淡々と落ち着いた感じでした。

PDS そうなんですね! でも、もちろんご家族から興味を抱かれていないというわけではないですよね。

為末 ビビっていたのかもしれないです。世の中がこんな仰々しいことになってしまって、申し訳ございませんって感じで(笑)

PDS すごく冷静に見られていたんですね。

為末 本当に田舎の普通の家だったので、なんだか大層なことになってしまったなと。そういう意味で、なるべく淡々と振舞っていたんじゃないかと思いますね。

PDS 為末さんが現役から退かれたいまでも、ご自身の立ち位置や業界を客観的な視点で捉えられているのも、ご両親のDNAを引き継いでいるのかもしれませんね。

為末 何をやるにも、おこがましいっていう感覚は染み付いているかもしれません。親の期待がいい意味でプレッシャーにならなかったのも、結果に結びついた理由のひとつかも。

PDS いまでは、コーチの仕事で親御さんに会うと思うんですが、子どもに対する教育の考え方を話されたりするのでしょうか。

為末 「お父さんにはお父さんの人生があるように、息子さんや娘さんにもそれぞれの人生があります。なので、お父さんの夢と子どもたちの夢は関係ないですよ」と話すようにはしています。ここが入り混じってしまうと変な方向に行ってしまいますから。

PDS 特に欧米には「子どもは子どもの人権がある」というマインドがありますが、日本はまだまだ子どもの意思よりも、親の意思が強かったりしますよね。

為末 そうですね。また、欧米では「子どもは社会が育てる」という認識が強いので、問題が起きても社会の課題として捉えられます。一方、日本は社会のサポートが弱いという背景もあって、子どもの不始末は育てた親に責任があるという捉えられ方をされてしまうこともあると思います。

アスリートをサポートする為末さんは、ブータンの子どもたちに指導することも
アスリートをサポートする為末さんは、ブータンの子どもたちに指導することも

PDS アスリートのキャリアの話に戻りますが、現役時代のアスリートは目標に向かって充実している人生だから、未来のキャリアについては心配していないと思います。ですが、引退という現実が見えきて急にセカンドキャリアを考え始めたときにはすでに遅くて、やったこともない職業に急いで就いて失敗してしまう人も少なくないかなと思っているんですが、このあたりいかがでしょうか?

為末 極めて正しい分析だと思います。ただ、現役バリバリのときにそうした問題を気づかせられるかという問いと、そもそも気づかせることが良いことなのかという問いがあって。

PDS アスリートとして競技以外のことを考えるんじゃないという。

為末 そうですね。「トンネル効果」というんですが、集中することで潜在的な能力を高めることもあるので、僕としてもやればいいとは言えないんです。ただ、引退前の一年と、数年前から取り組むのとでは違いはあるので、段階的に社会との接点を作れる仕組みがあると良いなと思っています。

PDS サポートする仕組みや団体はないんでしょうか?

為末 一度取り組んだことがあったんですが、なかなか実現に至らなかったんです。というのも、アスリートの支援者を集めるために社会との接点を作ると、支援者がアスリートのファンになってしまうんです。ファンの人がアスリートにアドバイスするという構図は成り立たないので、結果的にフラットなパートナーシップをつくるのが困難なわけです。

PDS 協会やスポンサーからの支援といったものもありますが、それも現役選手に限られていますしね。

為末 そうなんです。アスリートのセカンドキャリアの課題を解決することをミッションにする団体がひとつもない。支援してもメダルの獲得につながるわけでもないので、どの協会もアスリートが引退してしまうと接点を持たなくなってしまうんです。

>>>【3】必要なのは、競技特性を社会価値へと翻訳すること につづく