Plan・Do・See(PDS) 榊さんのお話を聞いていると、どういう少年時代を過ごされたのかなって気になります!

 妄想の多い少年だったと思います。

PDS 妄想ですか?(笑)どんな妄想をしてたんですか?

 夜寝る前にぼーっと妄想することが多いんですけど、例えば自分がヒーローになってクラスのかわいい子を助けるとか(笑)

PDS 夢見る少年ですね(笑)

 最近は自分の脳のことをよく考えるんです。

PDS 脳ですか?

 サウス・バイ・サウス・ウエストに、ADHD(欠陥注意・多動性障害)の自分と対話するホログラムAIを作っている人が出展していたんです。僕はそれまでADHDについてよく知らなくて、その人と話した際にADHDの検査リストを渡されてチェックしてみたら、全部の項目が当てはまったんです。

PDS 実際にそういう診断をされたんですか?

 そうですね。僕らの世代は多いと思いますが、僕はもともと左利きだったのを、親の教育もあって小さい頃に右利きにされたんです。それが影響しているのかなと思っています。幼稚園のとき、文字を鏡面文字で書いていたり。

PDS 左右反対になっていたんですね。

 ADHDはネガティブに捉えられることもありますが、経営者やアーティストとか、いきなりすばらしい発想をする人も多いんですよ。

PDS 発想の転換やクリエイティビティに富んでいるということなんですね。

 よく左利きは右脳をよく使うから芸術系で、右利きの人は左脳をよく使うから理論系だと言われますよね。僕がアートディレクター(AD)から理詰めで考えるデザインストラテジストになったのは、両利きであることが関係しているのかなと思います。

PDS 両方の脳を自然と使えるようになっていたということですかね。

 チームで何かをするときはいろんな考え方の人がいるので、それぞれの脳の違いだと捉えて、適材適所を意識するようにしています。

PDS 先ほど榊さんの少年時代のお話が出ましたが、学生時代は何を学ばれていたんですが?

 僕は金沢美術工芸大学で視覚デザインを学んでいました。でも、あるときの課題で「物を作ることの意味を感じなくなりました」って教授に話したんです。

PDS 視覚デザイン学科なのに!? 相当異端児ですよね?(笑)

 そうですね(笑)教授には「うち美大なんで、何か作ってもらわないと評価できない」って言われました。

PDS そうなりますよね(笑)

 そこで、何かを作るんじゃなくて、空間デザインをしようと思って。オリエンテーリングゲームを考えたんです。参加者を4チームに分けて、地図と謎解きの紙を渡して、宝探しをしてもらうという内容です。

PDS 面白そう!

 実際、謎解きのクオリティもかなり高いものが出来上がって、参加者にはとても好評だったんです。それで、最初のプレゼンでは全然教授に理解してもらえなかったんですけど、ゲームの様子を取り入れた最終プレゼンでは、「こういう形の表現があるのか」と、とても評価してもらいました。

PDS 美大生の頃からもう「電通」していますね(笑)

 そうそう、電通の存在も美大の先生に教えてもらったんです。

PDS ここまでOPEN MEALSの未来を主に伺ってきましたが、最後に榊さんご自身の未来はどういったプランをお持ちですか?

 OPEN MEALSをやり出してから特に社外の人たちのネットワークが広がりました。会社に縛られずに自分でプロジェクトをやっている人たちから刺激を受けますね。僕も会社の許す範囲でできることにチャレンジしていきたいなと思っていますね。

PDS 楽しみですね!

 あとは、これはどこかで話したいなと思っていたことなのですが、ADの仕事ってクライアントのオリエンを受けて、世の中の課題などを頭の中で編集して、カンプでビジュアル化するんです。いくつかのカンプを出してクライアントに選んでもらうわけですが、優秀なADのカンプはすごく価値のある情報で溢れている。でも、評価されるのは実際に出来上がった内容だけで、カンプを作るまでの過程は評価の対象にならない。

PDS せっかく時間をかけて準備しているのに残念ですよね。

 そうなんです。世の中の課題を可視化するというのは特殊な才能で価値があるのに、そもそもその行為に名前すらない。本当はここもマネタイズできると思うんです。だから最近僕はそこに「カシカシ」という名前をつけたんです。

PDS カシカシ?

 可視化する人、「可視化師」です。たとえば可視化師には一級、二級、三級があるかなと。言われたことをそのまま可視化する人が三級で、言われたことを議事録的に編集して載せるけど、そこにアイデアがない人が二級。そして、すべての情報を編集してアイデアもビジュアライズできる人が一級。

PDS そこまで分類できれば仕事に対しての正当な評価につながりますね。

 OPEN MEALSの話に例えると、プロジェクトメンバーには料理人もいれば研究者もいるし、僕のような広告業界の人間やエンジニアなど、いろんな業界の人たちが参加しています。そこまで多様な専門家が揃うと、共通する言語はビジュアルしかないんです。これから業種を超えたプロジェクトは世の中にどんどん出てくると思います。だから絵で説明するというのがとても重要になってくると思いますね。

PDS 今後はさらにAI時代が進んでいきますが、榊さんや可視化師のように人間にしかできない職業や能力が今後貴重な存在になりそうですね。今日は大変興味深いお話ありがとうございました!